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王道を走れば:幻想にて
第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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 日が西に落ち、葡萄のような紫紺の空が天上を埋めている。夜の冷え込みを抱きながら天上にきらきらと星々が瞬き、流麗な絵画を描いている。僅かに靡く雲はうすらと透けて、糸のように細く、綿のようにふんわりとして漂っている。穏やかな雰囲気を見せる空から月明かりが差し込み、人々の指標となって弧を描いていた。
 其の空をハゲタカの群れが和気藹々とした様子で舞っていく。久方ぶりの馳走に回り逢えたのだろうか。涼風が地を撫でて、大地にしかと足を着き目を閉じて自然を感じている慧卓の身体を撫でていく。肌をびくりと震わせるそれは、夏に感じるものとしては割と涼やかな方である。予め兵隊の人から上着を借りて来て良かったと、慧卓は一人思った。手に握られたジョッキを揺らしながら一人呟く。

「今日は...随分と波乱万丈な一日だったなぁ...」

 慧卓はそういって背後を振り返る。大きな篝火を中心に、人々が輪をなして語らい、朗らかな笑い声を零している。篝火の明るみを浴びて木製の民家が照らされ、黒味の深い影を地面に落している。腹の中に蟠る食欲を誘うように香ばしい料理の薫りが慧卓の鼻を刺激する。時折、笑い声に混じって溌剌とした調子の良い楽器の音が響き、小気味の良いタップが踏まれて地面が鳴らされる。
 陽気にはしゃぐ者達に歳の差も、男女の差も関係は無い。若き村長が軍の指揮官と葡萄酒を挟んで会談をする。鬼の小隊長らが兵士と共に騒ぎ、尋常なる飲み比べに精を出す。それに村の老翁が参加し、場は一段と盛り上がる。村の女性らが呆れるように笑みを浮かべ、それでも酒を運んでいく。老練なる神官が優しく子供達に語り掛け、子供達はそれをうきうきとして耳を傾ける。子供達の心を惹き付けるのは、遥か昔より語り継がれた、一つの英雄譚である。紫紺の空を杯に、饗宴が盛況の道を邁進していく。
 山賊討伐、改めて山賊捕縛の任を終えた兵士らと慧卓達。兵士達は昼を二つほど過ぎた時間になって砦の制圧を完了し、ひっ捕らえた山賊らと共に町に帰参。山賊らを警備衛兵らに引き渡すと、コーデリア王女と村の村長により催された、酒宴の歓待を受けていた。兵達が駐屯していた村、その中央の広場にて大きな篝火が焚かれ、周りを数多くの食卓が取り囲んでいる。何処からそんな数を調達したのだろうか。村の村長の財布の紐を握る若女房主導の下、村の女性陣が料理を瞬く間に仕上げ、それを食卓の列に運んでいく。運ばれる料理はお世辞にも豪華絢爛なわけでも、多種多様というわけでもない。だが、素朴な優しさの篭った味わいのある料理であった。
 狐色に焦がされた鳥の丸焼き。丸々と肥えたその身体全体に照りが入り、瑞々しく色とりどりの野菜を下敷きにして大皿に盛られている。鳥にナイフを通せば脂を浮かせた肉汁が溢れ、水滴のように皮を伝って野菜に付着する。肉が切り開かれると、幾重にも積み重な
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