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王道を走れば:幻想にて
第一章、その6:血潮、ハゲタカの眼下に薫る
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。斧を折られて槍となったそれを刺突させるカルタスより熊美は離れ、油断なく眼光を鋭く光らせた。距離を置く事により、息の荒ぶりも徐々に回復していく。

「はぁ...はぁ...はぁ...!」

 カルタスは心を動揺させて、熊美に悟られぬようにちらりと己の得物を見る。穂先の近くの部分を力点として槍が折られており、無機質な鉄の刃が奪われ、藪の如く穂先が幾本にも分かれている。人体を傷つけるに不足は無いがそれでも致命傷まで及ぶかどうか、怪しいものがある。熊美の大剣を拾えば良かったと、後悔が込み上げて彼の胸中を締め付けた。得物を破壊されてカルタスは完全に余裕を欠くに至り、その結果がこれだ。カルタスは救いを求めるように周囲を見渡し、鬼気迫った声で言う。

「剣を、誰か剣を!!!」

 その言葉が厳粛な静謐さを保った広場に木霊し、諸人の顔を撫でていく。山賊らの一部が諦観の色を浮かせて息を吐く。彼らなりに、勝敗の行方を見出したのであろう。決闘の趨勢を見詰めていたコーデリア冷静に、その答えを指揮官に向かって吐いた。

「剣を仕舞いなさい」
「剣を仕舞え!」
『剣を仕舞ええぇぇええ!!!』

 指揮官から小隊長へ、小隊長から兵士らに有無を言わせぬ命令が下される。兵士達が寸分の狂いも見せぬ統一された動きで剣の構えを解き、腰の鞘にそれを納めていく。鞘の口に鍔が当たる音が立続けに響き、カルタスを追い詰める。彼は目を見開き、木壁の上に立っている己の部下の方へと見遣る。王国兵らに剣を突きつけられた状態の彼らは何ともいえぬ表情で、遠くに居るカルタスに分かるように頸を横に振った。それを見た途端、カルタスの瞳に失望と絶望が駆け抜け、直後に自暴自棄なまでの憤怒が支配した。

「っっっっ、あああああああああっっっっ!!!!!」

 獣の如き蛮声を吐いてカルタスは熊美に襲い掛かる。槍を両手で掴み、乱暴にそれを振るって熊美を攻める様に最早悠然さは欠片も無い。熊美は振るわれるそれを身を竦めてかわし、時折に手にした斧を槍に向かって振る。空を凪いだ斧が冷徹に槍の穂先を捉えて、更にリーチを奪っていく。
 槍を振るう度に穂先が少しずつ斬り飛ばされ、槍が短くなる事に更に怒りを募らせるカルタス。その槍が2メートル近くまで短く成った時、彼は再び獣の叫びを吐きながら、猛然として熊美に迫りかかった。

「ふんっっ!!」

 熊美はカルタスの突進に合わせて距離を詰めるように跳躍して身体を反転させ、跳び後ろ蹴りを彼に見舞わせる。真正面から胸部に蹴りを入れられたカルタスは衝撃に目を晦ませて、勢いを受けるように後方へと後ずさる。
 肺の息を全て吐き出させるような強い衝撃を受けながらも必死に顔を上げたカルタスに、一つ軽い衝撃と、焼けるような熱が走る。それに彼は目を瞠目させ、衝撃が走った部分
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