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王道を走れば:幻想にて
第一章、その6:血潮、ハゲタカの眼下に薫る
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たその一振りはそれ故に大降りにならざるを得なく、カルタス程の熟練者であれば避けるは容易い事といえる筈。それを容易にせしめぬは偏に熊美の常軌を逸するほどの鋭敏な感覚と、強靭な体躯の成し得る業であった。
 剣にとって強い威力を発する方向である右斜め前に常にカルタスを置くよう、カルタスの動きに合わせて左右に足を運んで剣を振るう。先のお返しとばかりに放たれる熊美の剣閃の数々は槍の刺突もかくやといわんばかりの鋭さを兼ね備えている。眼前に翳された刃の先に剣が当たり、腕に諸に振動を伝える。足先を狙った剣の払いを、カルタスは足を高く上げて回避する。腕の返しの勢いを利用した払い斬りを胸先にて避ける。
 一直線に押しかかる攻勢を耐えながら、カルタスは己の腕に伝わる一手一手の重さに驚愕の念を覚えた。まるで錘を落すかのような重み。一手一手を受ける度に重い金属音が鳴り、彼の筋肉に疲労を与える。『豪刃』と畏怖されているだけあってか、老いて尚その一撃一撃が、肉体の最盛期を迎えたカルタスから余裕を奪おうとしていた。

(おのれっ、衰えた身でこの俺を圧すだと!?羆殿、全く以って素晴らしいぞ!!!)

 改めて相対する相手に敬意の念を覚えて、カルタスは膝を狙って払われる一撃を跳躍して避ける。そしてその勢いを生かすように斧槍を振り落とし、熊美がこれを横っ飛びに避ける。地を回転して勢いを殺した熊美にカルタスが踊りかかる。その無骨な顔付きには、猛然として高揚した笑みが浮かべられていた。両者の剣戟の度に金属質の高調子が鳴り響き、テールランプのように誓約の赤光が尾を引いて戦闘を彩った。
 その目まぐるしい交戦をコーデリアが驚きつつ見遣っていた。老いて尚豪腕を振るう熊美の実力に。そしてそれに堂々として対抗しているカルタスの底力に。武に関して未だ幼き視線を持つ彼女にとって、二人の実力は伯仲しているようにも見えた。

「...拮抗しているようですね...山賊とはいえ、侮れないものです」
「...いいえ、羆殿が力で圧しています。今は棟梁が己を奮い起こしているが為に拮抗が生じているだけです。気の巡りが途絶えれば、直ぐに勝敗は決するでしょう」
「流石は豪刃殿だ、油断も隙も見られん。カルタスも敵ながら見事な腕前だ」

 瞳を細めて冷静に情勢を分析する指揮官。興味深げに目を開いて武の鬩(せめ)ぎ合いに感心するアリッサ。それぞれの思いを胸中に抱いていたが、而して心の内では一つの共通認識が生まれていた。『この勝負、熊美に転ぶ』と。
 両者は爛々とした瞳で互いを見据えて戦意を湛え、疲労のために大粒の汗を流している。此処までは普通であるが、肝心なのは攻撃のキレだ。筋肉の疲弊一つが顕著に其処に現れ、精神の磨耗一つが技の冴えを狂わす。いわばそれは精密機械。一寸の狂いですらその趨勢に如実に影響を及ぼすのだ
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