第一章、その5:門の正しい壊し方
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砦の姿が見えた。普通の人間であれば背部からの襲来は不可能な地形。成程、この砦は確かに難攻不落の要害であるらしい。普通の人間であれば、の話だが。
「ふん、この程度で、私は妨げられないわよ」
熊美は獰猛な笑みを浮かべるなり、大きく開いた穴より身体を出して、断崖に所々に生えている岩の出っ張り掴み、一気に外に出ていく。
「よっと!!」
僅かな浮遊感を覚え、ついで靴底に確りと岩のごつごつとした硬さを感じた。両手で確りと岩の出っ張りを掴み、崖に足を着けている状態だ。熊美は聳え立つ絶壁の頂上に向かって、まるでフリークライミングの要領で一気に登り始める。岩の出っ張りも窪みも利用して手で掴み、足先を嵌め込み、身体をどんどんと持ち上げていく。その意気旺盛な瞳の中、砦の姿は全く揺らぐ事は無かった。
さて、時は僅かに遡る。
熊美の救出の対象となっているアリッサといえば、冷徹な地下牢より連行された後、奇妙な歓待を受けて戸惑っていた。場所は砦内で設けられた一際大きい大広間。壇のように僅かに出っ張った岩に追い遣られ、その彼女の周りを山賊達が輪をなして取り囲んでいた。彼らの瞳には、無邪気な尊敬と喜びの色が現れていた。それを猪面の山賊が苦虫を噛み潰すかのような表情で見下す。
『クウィス様、クウィス男爵様!!!』
『見ろよ、あの方と目元が瓜二つだぜ!!きっと剣の腕も継いでいるに違いないさ!!』
『あぁ、それに飛びっきりの美人だぜ!!もう神の祝福を受けてるとかそんなちゃちな話じゃないね!!!』
『男爵様万歳!!王家万歳!!!!』
次々に歓喜と礼讃の声を口走って山賊達は叫ぶ。ただ一時を以って目の前に現れたアリッサに彼らは心を奪われていた。老いも若きも皆彼女を褒めそやし、彼女が使える王家を讃えた。歓声は彼女の其の端麗な容姿を褒め称えるものではない。ただ純粋に、追い求めていた存在が目の前に現れた、その事実に喜びを顕にする声であった。アリッサもその気持ちを受け取ってか、心の底からとはいえないが、小さく笑みを浮かべて彼らを見遣っていた。
猪面の男が苛苛とした溜息を一つついてアリッサに鋭く声を掛けた。
「来い、時間だ」
「分かっている。...ではな、諸君。また会おうぞ」
『おおおおおおおおお!!!!!』
再び巻き上がる歓喜を背に受け、男が屈辱に耐えるかのように歯を噛み締める。この歓声、男にとっては決して心地の良い代物とはいえなさそうである。両者は大広間の奥、隅に設けられた通路の方へと姿を消していく。ひっそりと他者の視線から身を隠すかのように穴を開けた通路には松明の明かりが届かず、陰鬱な暗闇が広がっている。その闇の中で、男が零す愚痴にも似た恨み言が良く響き、アリッサの耳を騒がした。
「俺はこの国が嫌いだ、騎士様よぉ」
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