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王道を走れば:幻想にて
第一章、その3:オカマっていうな
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てくるから困ったわ」
「こっちは竜子だ。スキンシップ激し過ぎてやばかった。唇の近くに接吻されかかって怖かった」
「御愁傷様」

 二人は互いの労を慰め合いながら晩餐の後を片付けて始めた。テーブルの上に置かれていたのは人数分のグラス、そしてジュースの空き瓶につまみの料理が盛られていた皿だけだ。グラスが擦れ合い、穢れの無い布巾でテーブルを拭く、耳障りの良い音が鳴っていく。
 酒飲みから距離を置いた目的を持つこの店に来るのは、専ら下戸や酒嫌いの常連客である。時たま新しい客が来店する事もあるが、矢張り盛り上がるうちに喉に渇きを覚えるのか、酒の不在に一抹の不満を覚えてその日限りの客となる事が多い。今日はあくまでも、リピーターが確保できた特例の日なのだ。客がえらくごついオカマという問題を除けば、喜ばしい事である。
 片付けをしていた二人の下へ、一緒にお客の接待をしていた妙齢の店長が姿を現す。手には、一連の清掃道具が握られていた。何れのその道具に職人の巧み特有の冴えは無く、打って変わって機械の無機質な丸みだけが存在していた。

「今日はこれでお終いだから、二人ともその辺で終わって帰っていいわよ。お疲れ様」
「はい、分かりました。店長、お疲れ様でした」「お疲れ様です、先に上がります」

 軽く一礼をして両名はバックルームへと引き返し、ロッカーを開けて荷物を取り出し始める。帰宅の準備だ。慧卓は手早く己の服装を着替えると、荷物を持って実晴に声を掛けた。

「ほら、着替えたから交代」
「覗かないでよ?」
「分かっているって」

 バックルームを後にして、慧卓は店の裏口を出て待機する。バッグからミネラルウォーターを取り出して一飲みしながら、何気となく空と街を見渡す。
 既に十時近くまで夜が更けている。夕方に見た天上の茜色は夜の漆黒のベールで閉ざされ、大地から放たれる人工的な電飾の光が、そこにある筈の宇宙の煌びやかな色を消し去る。空の彼方には飛行機のライトだけがおぼろげに光っていた。昼間にあれだけ蒸し暑く感じた街中に、今ではひんやりとしたビル風が吹き抜けていた。
 裏通りから大通りを見詰めれば、ネオンサインを後光の様に纏った様々な者達が入り交っていた。残業を終えて疲労した身体に最後の鞭を打つ者。和気藹々として宴の肴を巡る者。視線をゆったりと這わせ今宵の獲物を探る者。麻薬のように魅惑を放つありふれた光景だ。

「開けるよー」

 其の時、裏口の戸が開き、私服に着替えた実晴が姿を現す。デニムにより引き締められた腰と臀部、ブラウスから覗く鎖骨の出っ張り、そして何より私服となって強調される女性らしさを誇った胸部。それらに慧卓は思わず目がいき、直ぐに視線を逸らした。着痩せするという言は確かに真であった。実際は生のそれも見てみたいところであるが、そこ
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