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王道を走れば:幻想にて
第一章、その3:オカマっていうな
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「ちょ、おまっ!!!」

 哀れ、片割れの下敷きとなってもう一方が地面に倒される。何とか上に乗っかってる男を横に倒したとき、何時の間にか距離を詰めたオカマが、悪鬼の如き禍々しい表情で男を見下ろし、その悄然とした顔面に鉄拳を振り下ろす。

「ふんっ」
「ごほぉっ!!!」

 拳によるそれとは思えぬ凄まじい勢いで男は後頭部を地面に打ち付け、白目を剥いて気絶した。オカマと言ってないのに。そう言いたげな表情を顔に浮かべて。
 慧卓は、覚醒したとき以上に呆然としていた。一瞬の内に二人の暴漢を潰した一連の過程、まるで何処かのゲームのように、とても現実のものとは思えぬ光景である。

(でもオカマは出なかったよな)

 その内心に渇を入れるようにオカマが伏した二人に向かって言う。 

「オカマじゃないっ、漢(おとこ)よ!!若しくは漢女(おとめ)でも可!!・・・さて坊や、怪我はしてないかしら?」
「・・・腹が痛い」
「見せてみなさい・・・嗚呼、酷い青痣。でもこのくらいなら大事には至らないレベルね。私の家が近いから、其処まで送って治療するわね。さっ、掴まって」

 有無を言わせぬ圧力を醸し出して、オカマはその逞しく鍛え上げられた背中を差し出して跪く。おんぶをしてやる、という意味らしい。
 流石漢を名乗る者だと、滑稽な感想を抱きつつ、慧卓は素直にその背中におぶさった。オカマはきりっと立ち上がると、一つ慧卓を揺らして身体を掴みなおし、堂々と夜闇を歩いていく。
 おぶされた慧卓は、そのオカマの艶々とした黒髪に、熊を象った髪飾りが付いている事に気付き、漸くその者の正体を理解した。

「もしかして・・・BARに来ていた、熊美さん?」
「あら、漸く分かったの?」
「その、暗闇だったんで、よく・・・」
「あらそう?」

 二人は会話が途切れた。
 熊美が歩いているうちに周囲を窺うと、漸く自分が何処にいるか慧卓は見当が付いた。先の公園の近くであろう、住宅街の一角である。しかも見覚えが無い作りの道だ。余程奥まで誘い込まれたらしい。此処から傷を負った体を運んで家に帰るのは、流石に困難を極めるであろう。
 今日は大人しく熊美の行為を甘受するほか無さそうだと、慧卓は申し訳無さそうに呟いた。

「なんか、すんません」
「いいのいいの、困った時はお互い様なんだから。それは何時の時代、どの世界でもおんなじ事なのよ」
「はは、まるで、別の世界に行った事があるみたいな、口振り」
「・・・まっ、そういうのもあったわねぇ・・・遠い昔の事だけど」

 何処か懐かしむような口振り。それに少しばかりの違和感を感じて慧卓は熊美を窺った。
 その表情を確かめる前に、熊美の髪飾りが突如として淡い神秘的な白光を放ち、髪の毛から離れて浮遊する。


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