第一章、その3:オカマっていうな
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声はまるで詩人の歌のように紡がれ、浮かれ気分で近付いていく。だが慧卓はその声に聞き覚えがあった。誰かとは特定できないが、強烈な人間であった事は覚えている。そう、つい先程まで共にジュースを飲み交わしていたーーー
「You will know my feeling. I changed to love rain wet cloths. And あばー・・・あら?」
ーーーオカマであった。それも筋骨が隆々としている。どこぞのオリンピック選手よりも、或いは古代ギリシアの逞しき銅像の数々よりも、均整の取れた肉体美であった。頸は太く、足は丸太のよう、胸板に至ってはふっくらと膨れている。人工的な豊胸ではない、自然とした大胸筋だ。
だが何よりも気圧されたのは、オカマの服装ゆえであった。美麗な薔薇のように紅に作られたドレスは、当に女性の体躯の美を、官能さを際立たせるがための代物。だがスリットから覗くのは無骨な筋肉。そして意味が分からぬ事に、ドレスの谷間が開かれている。元々はそういう造りであり、女性の豊満な艶治さを強調するためのものであるのは理解できるが、何故ごつい男のもじゃもじゃとした胸毛を見る羽目と成るのだろうか。初夏の暑さをものともせずに着こなされた、美麗なストールですらオカマを歪に彩るだけである。
嬲られ続けた挙句にオカマのドレス姿を見る羽目となるとは。自分の境遇に悲しみが込み上げて、慧卓は思わず眉を顰めて溜息を零した。その表情にそそられたのか、オカマが声を掛けてくる。
「あらあら、さっきの坊やじゃない。相変わらずいい面構えね?」
「・・・ただのオカマか、どうするよ?」
「やっちまおうぜ?どうせ一人だしよ」
「そうだな。俺の空手殺法が火を吹くぜ」
面食らっていた男の一人がこつこつと靴を鳴らしてオカマに近付いていく。見慣れているのだろうか、躊躇いが身体の動きに感じられない。流石常習犯なだけはあると、慧卓は不謹慎にも感心を抱いた。
「悪く思うなよ、変態オカマ野朗。見た方が悪いんだっ!」
そう言うなり男は一気に距離を詰め寄らせて、見事なまでに型に則った正拳をオカマの顔面に運ぶ。力強さ、鋭さ、そして動きの無駄のなさと言ったら、格闘に素人の慧卓にとって見たら一級のそれと大差が無いように見えた。
だがその強烈な拳はオカマが突き出した掌に難なく受け止められる。鍛え上げられた厚い拳が男の握り拳を掴み、ぎちぎちと締め上げる。
「・・・言ったな?」
「えっ?」
「あたしはオカマじゃねぇんだよぉおおおお!?!?」
「がぇっ!!」
裂帛。オカマの怒りの鉄拳が目にも留まらぬ速さで男の顔面を捉え、その体躯を吹き飛ばす。吹き飛ばされた男は一瞬の内に意識を飛ばし、粉砕された鼻から血潮を撒きながらもう一方の男へと飛来した。
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