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王道を走れば:幻想にて
第一章、その3:オカマっていうな
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 意識が無くなった中では時間の感覚も、足運びの感覚すら怪しい。かろうじて自分が瞬きをしている事だけが理解できているが、その間に何秒が経っているのだろうか。何とかして一歩の足取りを感じる間に、自分が何処を歩いているのか。まるで暗い荒波に攫われたかのような、無軌道な浮遊感と虚脱感が彼の全身を支配していた。

『よぉ、連れて来たぜ』
『お疲れ。んじゃまずは一発っと』

 エコーが掛かった声の後、慧卓の腹部に金属バットで殴られたかのような強烈な痛みと衝撃が走る。ばきっと何かが折れる音がした。目を覚ました慧卓は、頭が現実の理解をする前に背部を電柱に打ち据え、ずるずると尻餅をついた。慧卓はずきずきと痛み始める腹部を抑え付け、呆然とする。何が起こったのか。

「お目覚めかい、兄ちゃん」
「聞けよ」

 太腿を爪先で蹴りつけられる。妙に尖った靴のためか痛みが強い。
 やっとその瞳に現実に対する理解を示し、慧卓ははっとして顔を上げた。其処に、瞳を怒らせ青筋を額に立てた、粗暴な二人組みの若人が立っていた。顔は知らずとも服は知っている。先程飛び蹴りを浴びせた男達だ。 

「この野朗。俺達の遊びを邪魔してくれちゃって。しかもなに?タブぶっ壊しておいて逃げようっていうの?」
「勘弁してくれよ。おまえさぁ、いくらなんでもこっちがやられっぱなしじゃん?ムカツクんだよっ、こういう一方的なのは!!!」
(今お前らがやっているだろ!!)

 慧卓の心の叫びを消すように、二人組みは蹴り付けを浴びせていく。顔を守るために腕で庇うが、それはかろうじて致命傷を避けるだけであり、依然として脚部や腹部に徹底して二人組は蹴り付けていく。
 瞳にぎらぎらと凶暴な光を湛えた二人は、明らかに怒りの心と暴力的な嗜虐心に身体を支配させていた。執拗に足蹴を続け、慧卓の顔に怯えが走るのを今か今かと待ち続ける。だが慧卓は屈せず、逆に瞳をぎらぎらとさせて腕の間から男達を睨み返した。その態度が気に食わない、弱者はいたぶられ、泣けばそれでいいのに。そういわんばかりに二人組の足蹴は疲れを覚える事無く、それが延々と続くかと思われた。
 ふと二人組みの片割れが、奇妙なものでも見るかのように背後を振り返った。

「あぁ?」
「どしたよ?」
「なんか、聞こえないか?」
「ほんとだ。鼻歌か?」

 暴力の足蹴を止めて二人は耳を澄ましていく。
 漸く止まった攻撃に顔を上げた慧卓の耳に、静かに、流暢に紡がれる男の声が入っていった。

「Glorious and happy day comes. My bony lass loves this rain. Heaven is crying for pain. And I sing my feeling.」

 雨でも無いのに雨の歌。その
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