第一章、その2:三者仲良く...
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朗らかな笑みを一つ浮かべた後、熊美は般若のものではない真剣な眼差しをしてアリッサを見据えた。アリッサもまた目端に浮いた涙を払い、熊美を見返す。
「で、私をいきなり呼びつけるなんてどういう事かしら?ここは『セラム』なんでしょう?あっ、私熊美っていうんだけど、貴女は?」
「私は...私はマイン王国の近衛騎士、アリッサ=クウィスだ。前国王陛下が頼りに成った、『豪刃の羆』と呼ばれた屈指の武臣を、この髪飾りで呼んだ筈なのだが、貴方がそうなのか?」
「...全く、あの色ボケ爺ったら、とっくにくたばっていたのね。大事な時に使えって言ったのに」
懐かしむような瞳に寂寥の色を浮かべて熊美は一つ息を零す。アリッサは熊美がぽつりと零したその言葉に思わず瞠目せざるを得なかった。大陸に君臨する二大国家の一つ、マイン王国の前国王をボケ爺と呼び捨てた熊美の不遜な言葉は、彼女が想像だにしない言葉であったからだ。王国内でそのような呼び名を吐いてしまえば、『不敬罪』で牢屋行きになってもおかしくないと言うのに。
「確かにそうよ。私は王国の前国王、ヨーゼフ=マインに仕えていた一戦士だったわ」
「...信じ難いな。無論貴方は武臣に相応しき立派な体躯はしておられるようだが、その、容貌が、な...」
アリッサが戸惑うように熊美の顔を見詰めた。確かに武臣が持つような顔ではないと思い熊美は苦笑いで応える。
「まぁ初めて会ったらそう思うわよね。昔は野性味溢れる立派な好漢だったから、私。あの頃はやんちゃだったわぁ。斬りかかる敵を斬り捨ては殴り、斬り捨ては殴り「おーい、なんか燃えてるぞ」...って燃えてる?」
ふと、後方から掛けられた声に熊美は怪訝な表情で振り返った。先程まで蹲っていた慧卓が何時の間にか起き上がっており、木々の間に向かって指を差している。彼の指差す方向には、まるで人魂のように明るい点々が揺らめき、場違いな赤い光を宿していた。そう、まるで火の玉のように。
「ほら、なんか木々の間から「伏せろ!!!!」っ!?」「ふんっ!!」
木々の間から皓々とした赤点が飛来する。瞬間、アリッサは慧卓を地面に押し倒し、静謐の森林を襲う高調子の波から身を避けた。樹木の幾つかにその波が鋭く突き立ち、火花を散らす音が聞こえ始める。
熊美はというと、木陰に隠れながら飛来した点の一つを掴み取っていた。熊美が掴み取ったもの、それは鏃に炎を燈した火矢であった。鏑の孔の部分に油紙を詰めて火を点けており、まるで鏃自体が燃え盛っているかのように火を噴いている。だが熊美は矢の半ばを掴んでいる事により、事無きを得ているのだ。瞬きの間に幾間もの距離を飛来するそれを掴むその技は、常人が為し得る技ではなかった。
「...大体事情が飲み込めたわ。追われてるって事ね?」
「.
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