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王道を走れば:幻想にて
第一章、その2:三者仲良く...
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からして男なのだが、目付きが妙に女くさい。くりくりと瞳を丸めて周囲を窺う姿など、まるで少女の如き無垢な姿である。思わず胸中に吐き気が生じる。 加えてその男の背には、何処か甚振られた様子である青年が一人おぶられているではないか。見た事もない造りをした、白い上着に青の脚絆を履いており、こちらも同様に現状が理解出来ないでいるのか、周囲に聳え立つ木々を見て瞠目していた。
 アリッサの胸中の落胆はますます色濃くなり、彼女の柳眉が情けなく八の字を描いていく。
 
 (これは...主神から下された私への罪なのか...畏れ多くも殿下の所有物に勝手な狼藉を働いた、私への罪なのか...)

 思い余って殿下の所有物を地面に串刺したのが、そんなに悪い事だったとは。その所有物に秘められた神聖なる力を横合いより濫用した事が、そんなに悪い事だったとは。胸に宿る負の感情が新たな負の感情を呼び、彼女の心を締め付けていく。

「........あらぁ、此処ってどこかしら?」」

 其処でこんな暢気な言葉を漏らされては、アリッサでなくてもぷつりと来てしまう。心に芽生えた苛立ちを吐き出すように、アリッサは小さな声で呟いた。

「......ケダモノって、こういう意味じゃない...」
「おいてめぇぇ!?今ケダモノっつったかぁぁ!?!?!?」
「ひぃ!?」「うげっ!!」

 突如として面妖な風体をした者がアリッサに迫る。其の背におぶさっていた青年、御条慧卓は勢いについていけず、地面に無様に投げ落され、腹を抑えて呻き始めた。そして面妖な者、熊美はその一見無垢な中年の面構えを、烈火の如き憤怒を持った般若のそれへと変容させ、鬼気迫った様子で捲し立てた。

「私はなぁ、人に言われて腹が立つ事が三つあるんだよぉ!!一つは忘恩の輩、一つはオカマ、もう一つはケダモノだぁぁ!!」
「すっ、すみませんでしたぁ!!謝りますっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」
「いいかぁ!?私はなぁ、漢でもあり、漢女なんだっ!今度間違ってケダモノ呼ばわりしたらてめぇの頭を粉砕してやるからな!!!!」
「はひぃいい、もう間違えませんっ!!!」

 眼前に迫った般若の容貌のその恐ろしさといったら、大地を攫う海の波濤も、笑顔で怒る母の形相もいたく小さなものとなってしまう。アリッサは思わず涙目となり、言葉を噛みながらも必死に謝罪する。常の凛とした涼やかな声に情けなさが混じり、熊美の蛮声と混じって木々の間を駆け抜けた。熊美は暫く無言のまま彼女を睨んでいたが、やがて己の背中から消えた重みに気付いたのか、地面で腹を押さえて蹲る慧卓を見遣り、心配げに声を掛けた。

「大丈夫かしら、坊や?」
「んな訳ねぇだろぉがぁっ、諸に腹に響いたわこん畜生めっ!!」
「あらあら、意外とタフなのね。安心したわ。」

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