第一章、その2:三者仲良く...
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黒革の天上を貼り付けた大地、『セラム』。この世界の夜は常に危険な静謐さで満たされている。それには二つの原因が存在している、人と獣だ。
人は夜闇を好み悪事を働く。昼間において大っぴらに謀を巡らせ、或いは手癖の悪さを発揮する事は如何せん人目に付くのである。太陽の燦燦とした光に陰惨な表情は似合わず、まして他者の油断を突く様にその懐に手を忍び込ませるのは断じて許される事ではない。そこで誰が考えたか知らないが、夜闇の中に紛れて悪事を巡らせる事が流行りだした。この中であれば、顔の陰影ははっきりとはせず、音を出さぬよう気をつければ不道徳な手付きを見られずに済むというもの。最も、それを見越して闇の到来を待つ者もまた、世間には確実にいるのだが。
そして獣は夜闇の中で飢えを凌ぐ。人間の世界以上に、獣の世界は世知辛く、そして合理的なのだ。明るみに己を顕す事は、即ち天敵に己の姿を視認させるも同じ。逆も然り。また、太陽の熱線を浴びれば不用意に水分と体力を消耗し、気が付けば碌に歩けなくなる有様。まるで己を食べて下さいともいうべき、無用心な姿である事は間違い無い。よってこれらの獣は己の活動時間を逆転させる事を是とした。即ち、夜の冷え込みに己を曝して体温の消耗を防ぎ、闇のベールに己を潜めて獲物を狙う。彼らに共通するは唯一つ、生き残るという事なのだ。
この大きな闇の中では、万物を平等に一つの事象の如く見下す神の叡智も、或いは『セラム』にて産み落とされた人知の叡智の結晶も、等しく無意味なものとなってしまう。唯徒に、泰然とした現実を前にして意気を落とし、壊されていってしまう。
そして壊されるものの中には、当然として人の希望や、期待も含まれていた。
天上より降り注ぐ闇の中にひっそりと佇む森林にて、アリッサはがくりと項垂れて落胆する。地面に突き刺された人智の結晶、『召還の器』からは、本来ならば『豪刃の羆』と謳われ畏敬の念を集めた、クマと呼ばれる猛者が顕れる筈であった。其の者は大男の体躯ほどの大剣を手に取り、戦地を歩む度に人の身体を文字通りに切り裂き、叩き潰す、今生屈指の猛者として名高き戦士。『セラム』に生きる者ならば、其の名を知らぬものは居ないと言うほどの猛者。召喚すれば、この一つの危機を打開するのはいとも容易いことであろう。そのような期待を抱きつつ、アリッサは召喚に臨んだのだ。
而して現実はどうであろう。顕現した者は、体躯こそ非常にがっしりとしたものである。かなり鍛え抜かれているのであろう、首周りは太く、足は丸太のように太い。胸板も非常にがっしりとしている。が、其の者は高名な戦士の衣装とは程遠い、紅の妙に扇情的な女性用の衣装に身を包んでおり、終いには美麗な薄化粧を張っている。
(コレはなんなのだ......?)
目の前に生きる大きな人間が理解できない。がたい
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