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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十四話 独立混成第十四聯隊の初陣(下)
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くめた軍曹に西田はひらひらと手を振ってそれに応える。
そんな雑談に中隊長が苦笑いして注意する。
「貴様ら、余裕があるのは良いが、あまり無駄口を叩くなよ」
 中隊長は捜索剣虎兵第十二大隊から引っこ抜かれた不運な人間であった。中隊の練度の上昇に奮闘した一人であり、北領帰りの者達もその手腕に敬意を示している。
「ほう、流石は北領帰りだ。随分と手馴れているな。」
 棚沢大隊長が笑みを浮かべて数少ない活気のある部隊のところへ歩み寄った。
彼も匪賊討伐で相応の経験を積んでいるが<帝国>軍相手の実戦は初めての筈だ。
「その様子なら下手を打つ事はないだろうな。もう間も無くだ、準備をしておけ」
 いつもより早口でそれだけを言うとさっさと本部へと戻っていった。緊張――しているのだろう。だがそれを斟酌する間もなく、敵は迫っている。
 西田と共に北領で戦地を駆けた隕鉄が唸り声をあげる。獲物が間近にいることが手に取るようにわかるのだろう。彼女もまた北領を生き延びた熟練の戦姫である。
「まだだ、もうすぐだから我慢してくれ。」
 白兵戦の恐怖を紛らわす為に隕鉄の毛を揉んでいると軽臼砲の砲声が響き、西田の脳裏に闇夜を駆けたかつての捜索剣虎兵大隊の同輩達の姿がよぎる。
「第四中隊も、行くぞ」
 中隊長の掠れた声が静寂の中を響き、猫達が――歓喜の唸り声をあげた。



同日 午前第十一刻 独立混成第十四聯隊本隊より北方約二里
第二十一猟兵師団 捜索騎兵聯隊 聯隊本部

 ベンニクセン大佐の指揮する捜索騎兵聯隊を中核とした逆襲部隊は攻撃用意をほぼ完成させつつあった。
 彼らは騎兵砲の十分な援護を受けながら、猟兵二個大隊と騎兵一個大隊で砲兵隊を誘引し、迂回した騎兵聯隊主力の一撃で方陣の一部を崩し、そのまま砲兵と指揮本部を強襲。砲兵の排除後に猟兵達と協同して敵を各個撃破、騎兵砲の身軽さと敵が組んでいる方陣の鈍重さを利用した各個撃破を行うと云う聯隊長の構想を実行しようとしていた。確かに連なる方陣は確かに厄介極まりないが一度崩されたら見かけほど堅牢なものではないことを〈帝国〉軍は知悉しているのである。

だが、ベンニクセンが必勝を期した一撃を委ねた騎兵隊は想定外の不運に襲われることになった。突然――咆哮が響いたのだ。

「――ッ! 馬鹿な!!も……猛獣使いだと!!」
 ノルタバーン鎮定作戦にも参戦した歴戦の中隊長が悲鳴をあげ――それは彼が発する最期の言葉になった。



同日 午前第十一刻 独立混成第十四聯隊 集成大隊
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久中佐


 剣牙虎達の咆哮は聯隊長が期待した以上の威力を持っていた。騎兵達の足取りは乱れ、ベンニクセン達が立案した精緻な計画はその精密さ故に狂いだした。
だが――
「おっかないな、
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