彼らの名は
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だが火の手を防ぐバリケードを築いていった。それは焼け落ちるまで自身達を守り切る為のモノであった。
――そこまで……そこまでやるのかよ……。
決死突撃の徐晃隊を殺し切った所で、もう向かってこない徐晃隊を悲しげに眺めながら、堪らず文醜は声を上げ、
「なぁ、あんたらは守りたくないのか? 生きて守りたくないのか? 十人ちょっとなら……あたいも取り逃がしちまうことだってあるんだぜ」
ふいと目を逸らしながら曖昧に提案を行った。
もはや橋を抜ける事は出来ない。自分の望みが叶わないなら、敵兵を殲滅する事もないのだと。
賊相手ではあるまいし殺しつくす事は無い、捕虜として捕えた所で自害するのは目に見えている。なら、逃がしたらいいと。
降れと言っているわけでは無いのだから、それを選ぶだろうと文醜は思っていた。
しかし……最古参の面々はにやりと口を歪めた。
「お前バカだろ。俺らもバカなのさ。敵の情けなんざいらねぇ。俺達は御大将の命令を遂行するだけだ」
「だけど……だけどさっ! 最後まで生きるのを手放すなよ! 自分の手で守ろうとしろよ!」
それはおかしな光景であった。先程まで殺し合っていたモノが生きろと言う。もはやそこは戦場では無かった。
文醜は耐えられなかった。彼女は明や徐晃隊のような異端者にはなれない。彼女は……それになりたくてもなれない、それを助けたい側であるのだから。共に生き残って笑いあいたい普通の人であるのだから。
からからと、徐晃隊は楽しそうに笑い声を上げる。その言葉は誰しもが理解しているモノなのだ。彼が……最初に言った言葉と同じ意味を持っているのだから。
「そうさな、俺らは最後まで生きる事を諦めない。だけど……男には譲れない意地ってもんがあんだよ!」
「最後の最後まで無茶を遣り切る。逃げるなんて選択肢はねぇ。命令を遣り切って死ぬだけだ」
ギシリと、橋が不吉な音を立てた。絶望の音であると同時に、彼らに与えられた命令がもうすぐ完遂される証。
橋の戦闘の初めに、徐晃隊の防御によって文醜が幾重もの刃を叩きつけた為に、重心に異常を来して落ちるまでが早くなっていた。
「馬鹿げてるよ! お前らにも家族がいるんだろ!?」
引き攣るような叫びの声を受けて、面喰らったように徐晃隊は文醜を見つめた。
しかし数瞬の後――
「確かに帰ればあったかいメシと布団が待ってるし、女房と睦事だって楽しめるな」
「はっはっ、お前のかみさん可愛いもんな! 羨ましいぜ!」
「家族ってのはいいもんだ。作ればわかる」
「クク、俺にはゆえゆえの笑顔があればいいんだよ。あれに勝てる笑顔はないね」
「聞き捨てならねぇな。えーりんのきつい視線と『勘違いしないでよね』こそ最高だろうが」
「黙ってろ副長!
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