暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第一章、その1:どうしてこうなった
[10/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ブーツを履いている。
 そして何よりも目を引くのが鞘に収まって腰に挿された、一振りの剣であった。刀身はレイピアよりも僅かに幅広であろうか。だがそれ以外は通常の両刃の剣と相違は無い。持ち手を守るべく横に引き伸ばされた鍔も、握りを良くする為に柄に巻かれた布も、柄頭も、他の剣と同じである。だがこの女性が持つとなればこの剣は一段と違った意味を持つ事となる。騎士の名誉をその身に顕す、かけがえのない戦友と変わるのだ。

「...此方です」

 女性の騎士が、戸の中潜んでいたもう一人の手を掴んで廊下を走っていく。その手は華奢で、余計な皺も澱みも見られぬ、女神の如き美麗な手であった。騎士の背に纏われている純白のマントが、頭と全身をすっぽりとローブで隠したもう一人の者を守るように、ひらひらと揺れている。マントには、葡萄のように垂下する黄色の樫の花が描かれていた。

「静かにっ!」

 鈴のような凛とした声を出すと、騎士はローブの者を引き寄せ、急いで柱の陰に身を潜めた。彼女らが向かおうとした、通路の奥にあるT字路を男達が駆け抜けていく。
 女性の騎士は一つ小さな息を零すと、周囲に警戒を配りながらローブの者に目を向けた。 

「此処まで侵入してきたとは...迂闊でした。警戒の怠り、申し訳ありません、コーデリア様」
「過ぎたる事を責めても致し方ありません。今為すべき事は、直ぐにでも此処を離れる事でしょう。違いませんか?」
「はっ。騎士アリッサ、樫の花を背負う者として、己の任を果たす事を、主神への信仰と、剣の誇りに誓います。我が主、コーデリア=マイン殿下」

 まるで妖精のものかと錯覚してしまいそうな気品に溢れ、しかれども幼さが残る声がローブの中から漏れた。それに応えるように、アリッサと名乗った騎士はローブの者に対して恭しく礼をする。騎士より僅かに背が低い、コーデリアとよばれた者はローブの中から可憐な笑みを零し、僅かの間だけだがその琥珀色の瞳を和らげた。
 アリッサが通路奥へと向き直り、其処に立ち込める男達の野蛮な気配の有無を確かめていく。

(...感じられんな、ならば)
「今です」

 アリッサがコーデリアの手を引いて再び疾駆していく。T字路を右に曲って少し進めば、其処は教会の裏口である。二人が寂れた雰囲気を醸し出す教会を駆け抜け裏口に辿り着くと、其処に在った光景に思わず居た堪れなぬ表情を浮かべた。
 この山中の小さな教会に足しげく通って唯一度の怠り無く教会の管理を担っていた、清廉なる神父が胸を深く切り裂かれていたのだ。彼は瞳に絶望を宿し、息絶えた状態で身を冷たい床に伏せていた。紛う事無き、神聖なる場所を穢す事に躊躇いを覚えぬ、野蛮なる賊徒共の仕業である。

「...惨い。人は神罰を恐れぬと何処までも落ちるものなのですね」
「今
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ