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王道を走れば:幻想にて
第一章、その1:どうしてこうなった
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てある樫の花を象った髪飾りに指を触れる。数年前にアリッサがコーデリアと初めて顔を合わせた時より、常にこの小さな髪飾りを身にしてあった。亡き父君、ヨーゼフ=マイン前国王より授かりしこの髪留めは、いわば彼女と父を結びつける思い出の品。片時も彼女はこれを離さず、身に着けているのだ。
 コーデリアはその柔らかな手付きに暫し瞳を閉じていたが、直ぐにはっとした表情で抱擁から抜け出し、髪留めを解いてコーデリアに差し出した。

「アリッサ、これを!私では駄目ですが、これなら貴女を助ける筈!」
「?ただの髪飾りでは?」
「父上から譲り受けた『召還の媒介』です!強く念じてこれを使えば、黒衛騎士団のクマ殿が召喚されます!!」
「かの豪傑、『豪刃の羆』を!?」

 羆という者の名を聞いた瞬間、アリッサは瞠目してコーデリアを見詰める。その眼に嘘偽りの色が無い事を確かめると髪飾りを受け取り、覇気が混じった言葉を紡いだ。 

「...分かりました。援軍にお父君側近の猛者の援軍とあれば百人力です。これと共に戦い、直ぐにお戻りしましょう」
「...気をつけて。アリッサ。まだ貴女のアップルパイが食べたいのです」
「はははは、えぇ、帰ったら沢山作って差し上げますとも。.,,では殿下、往って参ります!」

 アリッサは背を向けて教会の方へと走り出す。賊徒達がどのような手段で森林を駆け抜けるか分からぬ以上、足止めをする必要がある。コーデリアは数秒、その颯爽たる背中を見詰めた後、馬の手綱を強く打って山道を駆け抜けていく。 
 アリッサは森林の只中を暫し走り、深く生い茂った草むらに囲まれた大樹に背を預ける。

「...此処ならばよいか。......何と念じれば良いのだ?」

 グローブの中で髪飾りは枝木の間に差し込んでくる月光を浴び、不思議な光を反射していた。その面妖さに、アリッサは大きな期待と確信を抱き、意気を込めて凛々しく言う。

「大いなる意思を持ちたる英傑よ、その神聖なる御魂を以って顕現せよっ!!」

 静寂。
 無反応。
 居た堪れない静寂に耐え切れず、アリッサは髪飾りを見詰めなおした。何の反応もせず、ただきらきらと反射しているだけ。

「えっ、えっとぉ...しょ、召喚されたまーえ、豪刃の羆よッッ!!」

 深閑として、虫の囀りだけが鳴っている。
 この念じでも駄目だったのか。ならば如何すれば良い?...はっちゃければいいのか。
 込み上げてくる羞恥心に僅かに頬を染め、弱り気味にアリッサは周囲を窺った。其処に誰の存在が無い事を、何度も何度も確かめた後に、抵抗感を無理矢理払うように声を上擦らせながらもそれを言う。

「ううっ、うわ〜〜〜タラヒラ〜マヤパ〜、異界の扉よぉ、開くのだぁぁぁ!」

 閑静。
 無音。
 アリッサは
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