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王道を走れば:幻想にて
第一章、その1:どうしてこうなった
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ない、機械的な心地良さだ。
 代わりに生徒らを襲うのは、純真な眠気と退屈であった。教室内ではだらだらとした者達が半分以上を占めており、後の半分は身体に鞭打ってペンを握っているという有様だ。
 興味のない歴史を学んだ所で、一体なんの役に立つのだか。そのような生徒の正直な感想が教室内にうっすらと広まっているが、中年の男教師は教鞭を振るって生徒に無理矢理ペンを持たせていた。教室に備付けられた大型の電子ボードには見事なまでに見易く、達筆な字の羅列が走っている。それが逆に生徒の眠気を誘うと知らずに。

「...補足だが、これにより事実上死亡判定を下された帝国を後年に解体し、帝国を消し去った英傑が居る。それが誰かを言えるのもはぁ...御条(みじょう)」
「......ンん...グー」

 中年太り且つ河童の如く髪を消耗させた教師が窓際中程の生徒を指名する。が、其の者は艶光りを放つ机に頬杖を突き、頭を揺り篭のように揺らして健やかな寝息を立てている。舟を漕いでいるように頭が揺れ、王道を走る黒髪のショートヘアがさらりに揺れた。

「御条慧卓!」
「でゃい!?」

 奇声を漏らして生徒が起き上がった。慌てたためであろうか、頬杖の手が机上よりずり落ち、もう片方の手が不自然に顔の前で構えられた。まるで前屈みに拍手している時に静止したかのような、若しくは目の前に飛び交う蝿を叩き潰さんと気を上げた態勢。
 教室内の生徒らが視線を交わし、くすくすと小さい笑い声を立てて生徒を見守る。その者、御条慧卓は羞恥心に頬を僅かに赤らめ、教壇の先生の言葉に答える。

「聞いていたか?」
「は、はい?」
「また聞いていなかったなっ?授業中の居眠りは今学期で何度目だ?」
「...六回目です」
「はぁ、其処だけは覚えているのか...じゃぁこいつに代わってだな...三沢、言ってみろ」

 代わりに指名された慧卓の一つ後ろの女子生徒は慌てて起立し、教科書のページに視線を落して答えた。

「あ、はい。えっとぉ、確か神聖ローマ帝国を解体したのはナポレオンだったような気が」
「其の通りだ。思い出したか御条?皆、此処は後日詳しくやるから今の内にノートの端にでも書いておけ。さて、条約の中身だがな...」

 三沢がくりっとした瞳に安堵の色を浮かべ、静かに席に腰を落としてノートにペンを走らせた。慧卓は周囲を窺うように視線を巡らせ、そして己のノートを開いていく。
 いざ筆記を始めんと気を奮わせた時、背中をつんつんと指で突かれ、慧卓は頸だけで振り向いた。三沢が苦笑気味にノートの切れ端を折ったものを渡してくる。慧卓はそれを受け取って開く。

『馬鹿っぽい反応で面白かったぞ、ねぼすけ』
(こ、こいつ!)

 驚きの視線を三沢に戻すが、彼女はにへらと口角と眉を曲げて斜め
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