他が為の想い
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られるのかも、俺達には分からねぇんです」
震える声で告げられる意味不明な説明に、雛里は尚も状況説明を求めようと口を開いたが、副長に掌を向けられて制された。
「追撃があるかもしれんのです。だから……ここで留まりつづけるのは危ねぇんだ」
しかし、彼の事が心配で堪らず、雛里は涙を零しながら他に情報は無いかと繰り返そうとした。
「秋斗さんはっ――」
「あんたは鳳凰だろうが! 御大将と並び立つんだろう!? まだ戦場の今、その姿はいらねぇ! 考えてくれ! あんたと、御大将が生き残れる方法を!」
強く、副長の言葉は雛里の胸に響いた。今すべきことはなんであるのか、求められているのはなんであるのか、焦燥に茹っていた頭は冷えて行き、彼女を徐々に鳳凰へと変えて行く。
「御大将の命令はあなたを生き残らせろ、そして我らの願いはあなた方二人の作る平穏な世。だからこそ……この命を駒としてお使いください、その羽で道を指し示してください。我らが大陸一の軍師、鳳統様」
一人の徐晃隊の言葉が決め手となり、彼女は一瞬だけ目を瞑り……開いた翡翠の瞳は凍えるような冷たさを宿していた。
「その覚悟、受け取りました。捨て奸の用意を。盾を捨て、死に伏した徐晃隊の装備である投槍を拾い、全力攻勢で逃走時間を稼いでください。残る人数の指示は随時私が行います。
丘の上から見た陣配置から分かりましたが、袁紹軍は森の抜け道を知らないと思われます。それと、馬は月光のみなので秋斗さんと小隊長さんで乗ってください。最後に……夜行軍に於ける松明用の松やに布と炭を動きながら確認してください」
付け足された説明に疑問を向ける事無く、徐晃隊の面々は腰に据えたポシェットを確認しながら列を整え始める。
徐晃隊は最後まで生を諦めず、一人一人が生き残る為にある程度の野営の装備は持っている。特に小刀と火起こし用の道具は最優先である為全員に。
月光が辿り着いて直ぐ、秋斗を担ぎ上げてその背に乗せ、次に小隊長が乗り……何も言わずとも、副長の背に雛里が飛び乗り、彼らは足早に駆けだした。
徐晃隊全てのモノの想いは重なっていた。
どうか、彼が無事でありますよう。
どうか、彼と彼女が平穏な世を、幸せに暮らせますように、と。
†
猪々子は怒っていた。
郭図から齎された指示が余りにも自分勝手であった為に。
陣を下げろと言ったはずなのに、直ぐに追撃を仕掛けろと来た。
意味する所は失態を犯したという事。その尻拭いをしろと言っているのだから腹が立たないわけが無い。
指示は最速で駆けられる小隊を率いて森の抜け道に突入、約三百の徐晃隊を殲滅し黒麒麟を捕縛せよ。
怒りに燃える心をそのまま、同じように三百の兵を連れて、彼女は先ほど森の
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