他が為の想い
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それは虎牢関で見た飛将軍が如き暴風。人であれば誰しも勝てるはずが無く、近づくモノは全てゴミ同然であった。
例え武人であっても勝てない。ソレと同じような化け物は、袁紹軍の武将三人と戦った後に、軍神と燕人と黒麒麟を無傷で倒し、孫呉の戦姫と宿将と袁家二枚看板を切り抜け、虎牢関を一太刀も浴びずに勝ちぬけたのだから。
その化け物と同じように、彼は今、『人』では無くなっているのだと、心が恐怖に彩られる。
次いで、心に来るのは不思議な想いだった。
じわじわと広がっていくそれは、昔聞いた事のある噂と重なっていく。
――あの方は、御大将はもしかしたら俺達とは違うナニカなのかもしれねぇ。いや、そうなんだ。御大将こそが……乱世を治世に導き、大陸を救う『天の御使い』なんだ。
男にしては異常な武力、大陸の外にあるはずの広い知識、乱世を終わらせて平穏な世界を作り出さんとする高き心。
どれを取ってもそれに当てはまっていく。
茫然と、恐怖につられて逃げ出す敵兵を余所に彼を眺める他の兵も、彼の事を副長と同じように認識していく。
副長達は他の事も頭に浮かんだ。
人は大きな力を得る時に何かを支払う。
才ある武人ならば、膨大な時間を掛けて力を得る。
凡人ならば、膨大な時間と血みどろの訓練を以って、さらに命を差し出して力を得る。
それでは……彼は、何を対価にあの力を振るっているのだ、と。
最初からそれが出来るならば、飛将軍に殺されかける事も無く、この窮地に追い込まれる事も無く、一人でも多くを救うために最前線で戦い続けてきたはずなのだ。
誰かを救いたいと言いながら、力を持っているくせに使わないモノは誰もが憎むモノである。
人を殺したモノが、強大な力を持っているくせに、後ろで指揮を取り続けるのなら、誰もついていくわけが無い。
それを分からぬ彼では無く、出し惜しみをする彼でも無い。
だから……彼はナニカを差し出してあの力を得ているのだと、副長も、徐晃隊の面々も考えていた。
この戦闘が終わったら、彼は『人』に戻れるのか。否、彼は彼で有り続けられるのか。
現に、その姿は、その瞳はもう『人』では無い。
人を殺す時の無表情はいつも通りだというのに意思が感じられず、操り人形のように他者を殺し続けるそのモノは、皆が慕い、共に戦い、守りたいと願った彼では無いのだ。
楽しそうながらも寂寥を隠した声で指揮を取り、からからと嬉しそうに笑い、人死にで苦悶を刻み、誰かがふざければ呆れたように苦笑し、からかわれてへたれながらも怒る……そんな彼が一欠片もいない。
ふいに、彼らの瞳から涙が零れた。
それはそんな姿になってまで――彼が絶対になりたくないと零していた――ただ言われるがままに人を殺すだけの存在になってまで先に繋
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