他が為の想い
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掲げる。幾本も、全てのモノ達が同じように天に武器を掲げた。
――バカ共が。最後までかっこつけやがって。
心の内で毒づいて漸く、彼は月光の腹を蹴った。その間を最速で駆け抜けながら、皆に不敵な笑顔を向けていた。
「乱世に華をっ!」
『世に平穏をっ!』
秋斗と雛里は橋を抜け、単騎で本隊へと向かっていく。徐晃隊が歩兵な為にこれ以上時間を掛けては回り込まれる危険性も考えてと、秋斗が起きたならば単騎の方が辿り着く可能性が格段に上がる為。これまでと同じく、生存率と効率の為に数を切り捨てたのだった。
言わずもがな、彼の命令でそうしたわけでは無い。徐晃隊が望んでそうしただけ。思考も想いも、秋斗と徐晃隊は一つであるだけ。
秋斗は一度も振り向かなかった。
橋を駆け抜けた月光は長い道をただ駆けていた。ほんの小さく、己が主人を慰めるように嘶きを上げる。雛里は彼の胸の前で月光の首を優しく撫でた。
秋斗は何も言わずに手綱を握りしめていた。強く固く、血が流れる程に。
震える拳は悔しさから。
一人でも多く生かしたくて、数多の部下を切り捨て続けてきた。自分が先頭に立つ事によって救われるならそうしてきた。後々の被害を抑えられる方法をいつもいつも選んできた。
今回は……自分の予測の甘さで全てを失った。
徐々に、徐々に震えが強くなっていく。
「っ……くっ……」
そっと雛里は手を重ねる。二人と一頭は初めての賊討伐の時に似ていた。
違うのは、雛里も涙を零していること。手を口にやってどうにか抑えようとするも、止まるわけが無かった。
ポツリポツリと、雛里の服に水滴が零れて行く。
秋斗はその背に頭を乗せた。
小さく響き続ける嗚咽はどちらのモノであるのか。
「……バカ共が……ごめん……」
彼は謝り続けた。彼は泣き続けた。彼女も泣き続けた。
二人と一頭は夜の道を行く。
どうか、想いを繋ぐから。
どうか、願いを叶えるから。
心の内で皆の笑顔と楽しい日々を延々と反芻しながら。
黒麒麟はその身体の大きな部分を失った。
されども世界を切り開く意思の角は失われず、想いも願いも全てが彼の元にあった。
ただ、彼はまだ……気付いていなかった。
自身の大きな間違いに気付いていなかった。
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