他が為の想い
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言わずに副長に同意を示す為に頷く。
雛里も、これ以上は何かを聞こうとしなかった。今はただ、彼が彼である為に。
無条件の信頼ほど彼の心を癒すモノは無く、それを間違う彼らでは無かった。
「そうか……信じてくれるか。ありがとう」
優しく、秋斗は戦場で見せない笑顔を皆に向けた。心の重荷が少しだけ軽くなった気がしたから。
同時に、彼は何があったかの予想を立てていた。きっと自分が何かをしたのだろう。そうでなければあの戦場は抜けられないと分かっていた。
例えば、飛将軍との戦いでも死なないほどの何かがあったからこそ、皆も助かったのだろうと考えていた。
彼に包囲網突破戦時の記憶は無かった。
直ぐに意識を引き締めた秋斗は生き抜く為に何をするか考えて行く。グッと拳を握り身体の調子も確かめながら。
「雛里は俺と月光に乗れ。手綱は握れるしまだ身体も動く。お前らは……好きにしろ」
にやりと、意地の悪い笑みを向けて、言わなくても分かるだろうと言外に伝えた。
もう既に彼らには命令が下っており、それを貫いてきた。だからこれ以上は必要ない。彼らにとってそれが何よりの信頼の証だった。
同じような笑みを返して来る徐晃隊の面々を一度見回してから、秋斗は立ち上がり、
「あわわっ。し、秋斗さん、何を……」
「月光に一人で乗れるなら降ろすけど……ほら」
雛里を抱き上げて、月光の背に乗せて自身も飛び乗った。後に、優しく雛里の事を包み込む。
外套をはためかせ、血が抜けて蒼褪めた顔ながらも凛とした表情の彼に、皆はきらきらと子供のような眼差しを向けた。
「そうさな、最後まで気を抜くなよ。常に最悪の事態を考えて、無茶をするなら遣り切ればいい。いつも通り、俺について来い」
『応っ』
小さく、彼らは声を上げる。安堵と……充足感から。
その数が少なくなろうとも、繋いだ想いだけは途切れさせる事はないのだと。
先導する彼は皆の憧れた姿のまま、これで我らの願いは必ず叶うと。
駆けだした彼らが橋に辿り着く直前に、最後の追撃が訪れた。振り返っても見えぬほど遠く、されども地を鳴らす蹄の音は、徐晃隊の数を遥かに超えている事が分かる。
「……副長、命令変更だ。お前も行け。徐晃隊の副長の名を轟かせて来い」
「御意」
二人の間だけで行われる短い会話。徐晃隊は命を下されるまでも無く、既に速さを上げて橋まで最速で駆けだしていた。
副長もそれに倣い、秋斗に目を向けずに全力で駆けだす。しかし秋斗は月光の速さをまだ上げず。
橋の上、全ての徐晃隊が居並んで二つの縦列を組んでいた。
真ん中を開け、まるで徐晃隊が決死突撃を行い、彼の為の道を作ったあの時のように。
先頭を担う副長は斬馬刀を、もう一人が剣と槍を天に
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