他が為の想い
[1/15]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
幾多のうめき声を上げ、倒れ伏す金色の鎧を纏った兵。
ハリネズミのように身体中に矢を突き立てて絶命しているモノは少なくなかった。
歪な円形に切り取られたその中心では、木の盾を掲げて纏まっている徐晃隊の面々が立っていた。
されども、円周の隊員達の脚や身体には矢が突きたっている。フルフルと震えながらも立ち続けるその姿は誇り高く、突然の矢の雨から近づけない敵兵たちの心を怯えさせるには十分であった。
断末魔と鈍重な打撃音が一か所だけ、戦場では鳴り響いていた。
黒一色に色を統一した衣服を纏い、自身の身長よりも長い剣を振るうそれは圧倒的な暴力を戦場に齎している。
馬から降りた秋斗の武はケタが違うのだ。
敵の武器を払うでなく避けながら近づき、打撃と剣戟で並み居る敵兵は吹き飛ばされ、斬り飛ばされるのみ。
練度が低く、怯えて攻撃も中途半端、連携の取れない袁紹軍の兵では一重の刃さえ掠らせられず、徐々にその数を減らしていく。
漸く、秋斗は敵の壁を抜ききって徐晃隊の元に辿り着いた。
また敵味方関係なしの矢の雨を警戒して纏まり続ける徐晃隊であったが、秋斗のその姿を目にいれてすぐさま方円陣に切り替わる。
ただゾクリと、徐晃隊は寒気を覚えていた。
秋斗の瞳が嘗てない程に冷たく、目を合わせただけで自分の命を諦めざるを得ないような感覚に呑み込まれて。
次に沸き立つのは悔しさ。
御大将が馬を下りてまで戦わざるを得ない状況に追い込ませたのは、抜けきる速度と敵兵を屠る力の足りない自分達であると責めるがゆえ。
徐晃隊の動きを見て……敵兵も待ってくれるわけがない。足元に人が倒れていようとお構いなしに、膨大な敵兵が雄叫びを上げて再度包囲網を築き上げた。
「……無事ですかい、鳳統様」
方円の中心、蹲る副長は身体を離さずにそのまま雛里に声を掛けた。副長の背中には二人の徐晃隊が圧し掛かり、代わりに矢を受けて絶命している。乗っていた馬も同じようにその横で倒れ伏していた。
返答は無言。
無理矢理身体を少し起こし、ズルリと背に乗る徐晃隊を振り落して、副長は雛里を確認した。
身体に外傷は無い……しかし、反応が無い。
急ぎ、心臓の音を確認すると、小さな鼓動が響いていて、ほっと安堵の息を漏らした。次いで頭を少し確認するとこコブが出来ており、急な下馬から頭を打ったのだと分かった。
応急処置を出来るはずもないが、秋斗によって知識を齎されている為に、なるべく動かさない方がいい事は知っていた。ただ、抜ける為には誰かが背負っていくしかない。
「鳳統様は無事だ! 生き残っている部隊長は彼女を背負ってくれ!」
誰に言うでもなくただ大きな声を張り上げた。背中を向ける徐晃隊から一人が副長の元に近付き、無言で雛里を背負う。
やっと
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ