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ゼロの思い

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触れられた瞬間分かった。彼は自分を生き返らせてくれる

この地に降りてから幾年経っただろうか。既に我が戦友酒井は鬼籍に旅だった。彼との付き合いは長い、初陣の中華の空で青く澄み渡るラバウルの空で私達は常に一緒だった

ここに来た理由など分からない
いつもの様に出撃し気がつけばこの大地であった

大空から降り立った私と酒井を村人は恐る恐るではあるが受け入れてくれた。酒井の純朴な人柄も幸いしたのだと思う
酒井は陛下に私をお返し出来ないと悔やみながらもこの地で精一杯生き豊と言えないまでも幸せな家庭を持った
戦場での彼はまさしく鬼神であるがこの平和な大地での暮らしは彼本来の明るさを見せていた

我らの故郷、日の本への望郷の念は無論あっただろう
だが彼は心配をかけまいと家族の前で涙を見せる事は無かった。
ただ夜中に時折私の傍で静かに泣くのだ

私が彼に言葉をかける事など出来ない、よしんば出来たとしても涙を止めてやる事も出来ない。
私達は穏やかな平穏の中ではあったがひたすら望郷の念と戦っていたのだ

酒井は強い、並の物が同じ状況になれば死を選ぶであろう

その中で穏やかな幸せを持てた酒井に間違いなく立派な戦士だった

その彼いなくなってからの私の記憶は余りない
竜の衣と私の事を呼んでたのは知っているが酒井がいなくなってからは私の元に訪れるなど暇を持て余した物好きな貴族くらいだ

だから私は眠った
「固定化」とか言う物のおかげで私の死はすぐには訪れない
その永遠に続くかもしれない時間に恐怖した私には寝ると言う選択肢しか無かった

この地で私を飛ばす事は出来ないだろう
ならば酒井との思いでのを抱いて寝ながら朽ち果てよう
あの懐かしき太平洋の空の思いでと共に・・・


覚醒したのはいきなりだった。
何年何十年寝たのか分からないが彼が手を触れた瞬間、私は確信した。また大空を飛べると

ーこりゃおどれーた、死んでるかと思ったけどしっかり生きてるなー

彼の持ってた剣が私に意志を飛ばしてきた
口は悪いが中々面白そうな奴だ、直感的にそう思った

ーどうやらそうらしい、私の中に流れる本能が彼の血に触発されたかなー

飛べる!!そしてまた戦える!!
この感覚は久しぶりだ、自分が兵器である事を思いだした

私は戦う為に存在する、そしてこの大地に呼ばれたのも必然だったのだろう。

ーこっちの相棒もやる気だねえ、これから長い付き合いになりそうだな。まっ一緒に戦おうぜ戦友!ー

私は戦う
再び大空を舞う為に
私は彼の翼となろう
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