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瀬戸際タイムマシーン
瀬戸際タイムマシーン
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を抜き取る。キレイな結晶が出来ていた。青く、少し緑に近い。北国の樹氷のように複雑な形をしていた。管から出し、テーブルの上に置き、写真を撮る。もう二度とお目にかかれない青い情熱だ。
「二回も用足してまだこんなにあったか・・・」
プレス機の前に立つ。結晶を台の真中に置き、躊躇無くプレスした。
アンドロイド小村の身体が少し震える。涙が浮かんでいた。
 小村は「アンドロイド小村」の頭を撫でてやる。プレス機にはまだ隙間があった。一度にプレスするとまばらに思い出の欠片が残る。その隙間を確認して再起動をし、腕を組んだ。圧力が増すのに時間がかかる。「キーン、キーン」と切羽詰った音が響く。手馴れた手つきで、しかし慎重に見えるほどゆっくりレバーを押し下げた。
「ズン!!!キーンッ!!!ブルルルル!!!!」
 若干空間が同心円状に揺らいだ。津波みたいに。コンクリート壁を突き抜けただろうか?実はちょっと影響がある。人の「想い」に対して。当たり前だ。これほどに強いねばねばした「想い」の結晶を亡き者にするんだから。小村の隣で「アンドロイド小村」はいつもの冷たいアンドロイド小村になった。


  近隣にて

 セミダブルのベッドに、見晴らしのよい小窓から冷たい青い月明かりが射す。部屋のあらゆる物は薄闇に溶け、染まり尽くす。夫「何某」の腕が妻「ナニガシ」の頬に触れるためにゆるりと動いた。月明かりに「我が物に遠き誰その腕」、となるような物である。
「今日は何かいつものやつじゃないな」
「ナーニ?」
「終わった後、疲れがなくなるような」
「そうだったの?」
「何のあとくされも無いって表現がぴったりの、何かをリセットしたみたいな」
「キレイな物見たわ」
「何? 夢?」
「白昼夢でいいのかしら? とてもきれいで、現実にもどっても後をひかないさらりとしたやつ」

 
 アンドロイド小村の創った夢

  青濃い宙、遥かに断崖を望む水際の線。控えめな水の泡立ちと無音の波が現実を遠くにする。その断崖は、威圧を遠くに在るからの不知とし、美しさは現実から逃避するように漠と観察されたぼやけたものではなく凛とした輪郭と確かさを送りつける。桟橋がある。曖昧な桟橋である。良くある邪魔をしない桟橋である。良くあるからの馴染み深さを、その月日による朽ち果てに頼り、佇むことを許されている。水が透明を逸したクリスタル。その不透明さは水が透明であるからの美しさを超えた、空を克明に映す重い銀色のクリスタルである。おもむろに水面下に在るクリスタルのハイヒール。それを飲み込むその不透明はしかしながらにヒールの姿を隠すことなく透かし、淡いベージュのワンピースを纏う歌姫を誘い、ヒールをすくい上げるのに何一つの邪魔をしない。歌姫はそれをすくうと水面に泡を浮かべる。「あぁ、水なのだ。息ができな
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