瀬戸際タイムマシーン
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変遷を経るのかまだ知らない。
「ん? 私で試すか?」
携帯に手がかかる。クミコに電話するのか? 顎に手をやりしばらく頭を空にした。マルボロの灰が長く伸び、床に落ちた。ソファに寝そべって天井を仰ぐ。疲れから来るだるさと賢次郎とのやりとりで少し脳の電圧が上がってしまった。下腹部に重たい情を感じる。手を伸ばさない。ペニスをしごきすぎるには歳をとりすぎているんだ。扇風機が風を運ぶ。風は頬を冷まして上空をマルボロの煙でまく。
小村が詩を詠む
知らない外国のおじさんが言う
一〇二六段階段を上ってくれないか
一段目で君を知り
七段目で君を失う
十段目で将来を考え
その次に理不尽を知る
おじさんに言う
あなたはどこまで上れたのかを
おじさんは言う
最後の段は私の気持ちです
僕とおじさんはハート型の船で
大洋を渡り
崖の上で雄叫びを上げる
それが何の意味があるかっていわれても・・・
おじさんは言う
東京がマグネチュー度4程の不幸から免れたって
本当はどうだかわからない
僕ときたらまだ君と寝たいと思ってる
もうこんな時でさえ
体がうずくんだ
頭の中で誰かが問う。
「タイトルは?」
「ア・バオ・ア・クゥー」
幻獣の名前だった。
小村は目を閉じ、まぶたの向こうを意識する。赤く輝く点が見える。月から見る火星が地平線へ没する以前か。やがてそれは彗星のようにぼやけて僅かに動く。この部屋に円い光源は無かったはずだ。残像じゃない。まぶたの向こうの赤い光がピンぼけのカメラを通したようにその向こうと溶けている。股間は目覚めたばかりのように8割方に硬い。
瀬戸内を封じ込めたクリスタルを左手にもてあそび、小村は自分の為す行為のみを意識する。この結晶を砕く様を想像し、そこに後悔と嫌悪が無いことを確認する。
「よし」
小村は結晶の写真を撮り、躊躇無くプレスした。
瀬戸内がアンドロイドにささやいた名前「ア・バオ・ア・クゥー」は悟りの道への付き人の名だ。殺人が悟りの道とは驚いたものだ。
「粉々に砕いてやる」
小村は幾度となくプレス機をピストンして、世界はねじけていく。
瀬戸内の結晶が広げた世界
風が潮を巻く街、レンガの倉庫群を望む埠頭。それまでの理知的に生きてきたであろう人生の歴史が刻まれる深い皺のある顔をもってして白髪の老人が隣の若い男に問う。
「純粋な苦痛を知っているかね」白髪の男が言う。
「『純粋な』という表現が解かりませんが」と若い男が言う。「説明して欲しいな、面白い仕掛けがあるのだろう?」若い男は素直で無表情だ。
「『純粋な
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