瀬戸際タイムマシーン
[20/29]
[1]次 [9]前 最後 最初
小村は小刻みに首を縦に振る。賢次郎がため息をする。
「任せるよ」手を前に組んで賢次郎が言う。
「どうも」
賢次郎はトヨタ「ソアラ」で研究所を後にする。草原の小さなコンクリートの塊に小村と、アンドロイド小村とそれに残る結晶だけがある。小村は深呼吸をした。蛍光灯がまぶしい。コーヒーを淹れてマルボロを咥えた。BICのライターは火を着けられずに小村の右手に揉まれる。換気扇と扇風機が四六時中部屋の空気をかき回している。
それにしてもこれほどに密な物語をアンドロイド小村に作らせる情念に感服した。この「結晶」を砕いたとして彼がまた、自分に不利益なしがらみをかき集めないとは限らない。
しかし精神病の殺人者なら刑務所より厳しい病院生活が待っているだろう。白い錠剤を言葉が不自由になるほど、小便が出なくなるほど飲まされ続けるのだ。しがらみなど感じないほどぼうっとして生きるしかない。生きた屍の様にだ。
では「結晶」を砕くのに意味があるか? 精神病が治る? 普通の殺人者に?
イヤイヤ・・・私の目指すのはそこじゃなんだ。病理を無くすんじゃないんだ。病理を生み出す『圧迫』から人を解放するのだよ。この世の中にある全ての『圧迫』の親玉的な情念を探しているんだ。それは社会的に危険な事だ『圧迫』を頼りに生活をしている人もいるのだから。
彼の「結晶」は親玉的圧迫だろうか? 今砕いていいのか?
私はタバコに火を着けて深く煙を吸い込んだ。
「どうしようか」
小村と「想い」の結晶
応接室の机の上に写真が並べられている。数十枚の結晶の写真。小村の手には瀬戸内の「想い」の結晶の入ったクリスタルの管。写真はいずれも小村が「想い」の重圧から逃れるためにアンドロイド小村を経てプレスされるに至った物だ。どれも懐かしく美しい。
「美しいな。ウーン」小村は瀬戸内の結晶を眺めている。
その結晶は写真の結晶とあまり変わらない形状をしているが、色が薄い緑のとブルーサファイアの結晶のようなものとまばらに混じった感じである。宝石の原石はこんな感じだったかと思う。樹氷状の枝を見るとわずかに螺旋階段を思わせるものがある。螺旋階段から「DNA」や「繰り返し」、「無限」「堂々巡り」「完全な閉じた世界」を思い浮かべる。小村のそれは気まぐれに伸びており、規則性は見当たらない。枝も雪の結晶のようには規則正しくなく幾何学的ではない。その形状から何かインスピレーションを受けることはなかった。規則性を見ればその質が分かる、と言えるまでサンプルを集めたいが、如何せんまだサンプルの幅が狭い。クミコのものはこの研究所を出る時、彼女自身で破棄してしまった。
「しばらく様子を見るか」
結晶を形作ってからそれをかき消されずにいた場合、本人の「想い」がどのような
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ