暁 〜小説投稿サイト〜
瀬戸際タイムマシーン
瀬戸際タイムマシーン
[19/29]

[1] [9] 最後 最初
ったことを少し根に持っているみたいだ。おまえごときに理解できるほど人間は単純じゃない。社会と自分の関係とを単純化した上の殺人犯だったんじゃないか。お前が同じ様に単純に理解してどうなる。馬鹿者。単純に理解をした時点で人間の心はちゃちなオルゴールのメロディーに変わっちまう。賢次郎は唇の乾いた皮を剥きながら宙を見ている。
「このビデオはどうなる?」賢次郎が聞く。
「私が保管します」
「流出は?」
「それほど危険ですか」
「彼の話、つまり機械の話自体はどこにでもあるようなものだけど、この研究所自体がね」
「SF映画に見えるだけですよ」小村の頬肉が少し持ち上がる。
「それほどテープが重要だと思うかな」
「分からないのでしょう?」
「何が?」
「話が」
「小村教授。あなたには分かっているんですか?」
「話の意味は、あのままですよ。あれ以上の意味もなければ、それ以下でもない。話から彼を考察するのは自由だ。しかしね、それはあくまでも私たちの見解なのです。そしてアンドロイドから抜き取った結晶をプレスすれば終わる。もしかすると彼は反省するかもしれませんし。それが望みだったのだし」
「結晶を壊せば何もなくなると?」
「彼の『想い』が完結するのです。彼の『想い』は何も求めず、いわば社会的に完結します」
「社会的に?」
「現実的にと言った方が適切かもしれない」
「申し訳ない、具体的に言ってくれないかな」
 小村は少し考える。彼の想いが造ったこの物語の結晶をプレスした時の近隣の住民に対する影響を考える。彼自身のことは考えない。右の耳たぶをつまんで小村が言う。
「彼の付属品が剥がれ落ちるとか・・・」
「つまり?」
「彼を彼たらしめんとする社会との無関係化といいますか、彼の人生を形作ってきた事象の無意味化という感じです」
「そんなに上手く無になるのかな」
「彼の人生があなたの知っている犯罪と、それを招いたであろう彼の主観としての環境と記憶にだけ満たされているとすれば、です」
「そんなに上手く?」賢次郎は右斜め上の蛍光灯を眺める風で尋ねる。
「まぁそれが彼の本来のエキスを構成しているなら、です」
「抜け殻に?」
「はい?」
「彼は抜け殻になるのかい?」
「ある意味」言いながら小村は少し泣きそうになる。「抜け殻」なんて言葉聞きたくなかった。小村は今まで自分の「想い」を押し潰してきたのだ。抜け殻になったほうがましだ、と思いながら。抜け殻になることで自分を保ってきたのだから。
 賢次郎はこれ以上係わりたくないって感じで両手を上に向けて左右に振る。降ってきた雨を確かめるように手を振っている。
「俺は反省した態度をとってほしいだけなんだけどな」
「反省はもともと本人の中にない限り生まれないと思いますが」
「本当に?本当にそう思うかい?」
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ