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瀬戸際タイムマシーン
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私たちを満たすのは神の吐息ではない。ブンチョの水なのだ。


   瀬戸内と六感カウンセラー

  男は幸せそうに見える。三十台半ばで瀬戸内と年代は変わらない。よい年のとり方をしていると感じられる。年輪が正しく刻まれているのだ。しかるべき時にしかるべき経験をし、しかるべき傷と誇りを備えているように見えた。男の繊細な顔つきはその人生に共感を促す事に長けている。瀬戸内は長い間、匿名性を得るためにしこしこと身体を磨いている。肌は小麦色になり、肩幅は人並みを超えている。そして瀬戸内は同情を払いのけ、孤独を手に入れたのだ。
私は同じ年代を生きた事が二人の人生についてどのように影響を与えるかを考えている。コンプレックスとセクシャルなモラルのこと。男性ホルモンとその強さの時代的寵愛度。あるいはBOSEのステレオスピーカーの進化について。男も瀬戸内も同じく世紀末を越え、新世紀を生きてきた。大きな変化ではあるがその意味がどれほど個人に深く染み入ったのかは想像ができなかった。
男の左薬指にはシルバーのリングが光っている。私生活が垣間見えるのは人間の武器だ。「私も生活をしているのだ」と主張する。踏み込んではいけない領域を暗に指し示している。瀬戸内は自分がホモセクシャルである可能性に思惟をめぐらす。アダルトビデオのペニスとヴァギナのどちらに感じるのかを考える。瀬戸内の中ではどちらも他人行儀に振舞っている。そういえば自分のペニスにも他者を感じる時がある。問題がホモかヘテロかの枠を超える。だいいち、結婚していないだけでいぶかしげに見られる時代ではないのだ。
男は瀬戸内がはじめて会う「カウンセラー」だった。瀬戸内は自らの考えを人に話す事はまずない。瀬戸内の中に築かれた世界は瀬戸内の理解と同時に宇宙を介してすべてに沁み込み、広がらなければならないと感じさせる密度を薄めていく。瀬戸内の世界は知らず知らずにあたり前になるのだ。
瀬戸内が「カウンセラー」に語る。「カウンセラー」は語られるのを待っているのだ。

  「昨日、神様が降ってまいりまして・・・・私に真実を伝えていきました・・・いや、   正確には昨日ではなくて昨日までに、です・・・・。この話しはよろしいですか? よろし・・・い? はい。まずここに一つの幽体離脱した存在があります。幽体離脱した幽体は目的に向かって時空を越えます。もちろん目的にまで達するまでいろいろな人を通ります。その幽体が時を越える時、長い距離を移動したい時、さまざまな越えるべきものに適した中継地を経て目的地に辿り着きます。ちなみに中継地は人間の脳の中の無意識であります。もっと専門的にいえば余剰意識と言うものです。そして辿り着いた先が『魔法使い』なのです。幽体が辿り着いたところが『魔法使いの身体』なのです。元々彼・彼女が魔法使いではないのです。幽
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