瀬戸際タイムマシーン
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男は神になり
男は骨になる
男は風になり
男は雨になる ♪
瀬戸内は夢を見る
砂の大地に渇きを感じさせない子供の目、その顔は頬白い。父親カリカがその息子ビトに問う。
「空紋が見えるか」
「フウモン?」
「いや、地下水脈を導く空紋だ」
ビトは空を眺める。きっと青の深さが違うのだろうと注視する。親子は砂の大地をラクダに似た「キュー」に乗り空紋を探す。「キュー」の毛は白く目が小さい。まぶたの下に薄い膜があり砂嵐から眼球を守っている。翼があるが飛ばず二本足で歩く。背中のコブがラクダ風だ。首は太く黄金色の飾り毛に覆われ、その背にまたがる者の助けになる。
飼い猫の「サイ」がビトの胸に隠れる。瞳がグリーンに輝く。
「空紋が集まって来た。神が降りるぞ」カリカが言う。
カリカは小指をくわえ長い口笛を吹いて辺りを眺める。「ブンチョ」を呼んでいるのだ。「ブンチョ」は「帝國」の名残である。「帝國」は緑の大地から砂漠に侵略する。砂漠の向こう側の「小国群」に届くように。戦時中砂漠で水を確保するため「ブンチョ」を育てた。「ブンチョ」は銅で出来ており、細い二本足で走る。その間から細い管を砂に下ろし、水脈から水を吸い上げ背中の小池にためるアンドロイドである。「ブンチョ」は「チー」と鳴く。鳴いて仲間を呼び集める。水のありかを知らせるためだ。カリカは「チー」と口笛を吹く。ビトは砂に右手中指を差し込んだまま左手で猫の「サイ」をなでる。風がひゅるひゅるビュウビュウ音程を変える。遮るものがない。時間が流れる。白い月が小さく浮かぶ。カリカの五感は砂粒の味と、匂いと、痛みと、意識をふさぐように響く音と、視界をさえぎる砂煙とを通り越した。丘の向こうと意識が通じたのだ。向こうに遠くからブンチョ親子が走ってくる。カリカが小さいほうを指して言う。
「お前あっちな」
ビトは右手中指についたベッコウ色のポン砂を舐めている。ポン砂は「砂の一族」の栄養になる砂漠の養分である。砂中に指を突っ込みグルグルとかき回す。磁石に集まる砂鉄のようにポン砂が指にまとわりつく。皮膚の水分を奪い飴状のポン砂の塊が指をコーティングする。味は無く、舌触りは濃い油のようにトロリとして咽を乾燥から守ってくれる。ポン砂の影響でカリカとビトの胸部にはクリスタルの結晶が出来ている。「砂の一族」特徴だ。勲章にも似たクリスタルが青く、生命に馴染むようにして輝く。
ブンチョ親子はなみなみ水を湛える。カリカ親子はそれをゆっくり飲み干す。ブンチョの首に縄を付けてキューに縛る。また水を求める時にはこれを放し、後を追えばいい。
彼らは神を手なずける。一番過酷な場所で生きる人たちの特権である。命満たすべき総てにおいて枯渇しがちなこの砂漠で生きるために。偶像に溺れず、何が私たちを満たすのかを知る。
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