瀬戸際タイムマシーン
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に当てはまる確立はどのくらいかな? どのくらいなのかな? えっ? どのくらいなのですか? どの・・・どの・・・どの・・・くら・・・ぁぁぁぁぃ。どのくぁぁぁぁぃ・・・・はぁぁぁぁぁ・・・・」白衣を着た人々は説き伏せられるのが嫌いなのだ。用意していた鎮静剤を左肩に刺した。
「ほんとうにやるとはなぁ」
瀬戸内は目覚める前に声を聞いた。「ほんとうにやるとはなぁ」が頭の中に浮かび、人殺しと、なしとげられた横恋慕と、栄光のゴールをあちらこちらにちりばめる。見上げた天井に高い空を思い、また夢想した空の低さに自らの感性の窮屈を感じている。
その部屋で長い時間が過ぎる。一日は食事とトレーニングで終わる。トレーニングを止めることは諦めたみたいだった。しかし五〇回を過ぎることは無い。それなりに抑止されているのだ。苦痛は瀬戸内のその表情からは伺えない。この部屋には鏡も無いのだ。
三週間が過ぎる。「妄想は無いか」と聞かれる。「無い」と答える。「幻聴は無いか」と聞かれる。「無い」と答える。「誰かが見ているか」と聞かれる。「誰も見ていない」と答える。瀬戸内はベッドを与えられる。二週間同じ毎日が続く。食事をしてトレーニングをする。白い錠剤は徐々に瀬戸内から緊張感を奪い始める。それでもトレーニングは続く。物事を続けるモチベーションは何も緊張感だけではないのだ。瀬戸内は『否トレーニング』と戦っている。
瀬戸内は日焼けを許される。毎日一時間日焼けをする。トレーニングをする。鏡がある。それをのぞく。そこにいる男は瀬戸内である。日焼けをして、身体が締まってみえる。そこにいるのが瀬戸内であるのは瀬戸内がよく知っている。瀬戸内が鏡の前に立っているのだから瀬戸内なのだ。よく日焼けをしているのでそれは誰でもかまわないのかもしれない。身体を締め、日焼けをすることで匿名性を得たのかもしれない。それをじっと見つめる白衣がいる。彼は瀬戸内に白い錠剤をあと何_与えればブヨブヨと太るのかを計算している。
ある日「ここから出たいのですが」と瀬戸内が切り出した。時間が切り取られる事に少し参っていたのだ。「これからもここに通うか」と偉い白衣に聞かれる。「通う」と答える。瀬戸内には私服が与えられる。街に出た私服の瀬戸内は普通の三十二歳だった。
瀬戸内はアパートを借りる。大きな姿見を買う。その中の男は確かに瀬戸内なのだ。瀬戸内は毎日トレーニングをする。食事を欠かさず摂り、太陽を求め南へ旅をする。よく日焼けをし、匿名性を得る。
瀬戸内は詩を詠む
アフリカの奥地
水を汲んできた男
地雷を踏んだ
そのまま動けず
やってきた甥っ子に
助けを求め
一日が過ぎる
男が詩を詠む
救われない者などいない
そんな詩を詠んだんだ
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