瀬戸際タイムマシーン
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えちまう。エイリアンが私を鬱に引きずり込まんとノックする。それは下腹部に移動して熱に変わる。もよおすのだ。鬱ともよおしが交互にやってくる。性的興奮が鈍重を導き、鈍重が破廉恥を呼び込む。フーマッタク。
私はアン公の頭を撫でてやる。優しく撫でてやる。待機電力でほのかに明かりのともったアン公は臨戦態勢だ。私は頭をウンウン縦に振る。
「がんばれよアン公」
客が来るまであと少しだ。
患者「瀬戸内 要次」VS「アンドロイド小村」
リノリウムの床に敷布団が敷かれている。床と布団の間にはカーペットがある。冷たい床に布団を敷くほど無作法ではないみたいだ。コンクリートの壁に囲まれているが部屋は暖かい。空調の音がしている。仕切りの無い便所がある。便器がそのまま部屋に露出している。部屋にドアが一つ。黄緑に塗られた鉄のドアに鉄格子付の小さな窓。枕元にはプラスティックの容器に入ったコーンポタージュとバターサンド、一八〇ミリリットルの紙パック牛乳がプラスティックトレイに載っている。
瀬戸内は枕の臭いを嗅ぐ。クリーニングの匂いがする。身体を起こす。パジャマのズボンのゴムがめり込む腹を見る。腹を引っ込め上着をはだけてみる。幾筋にも走る皮膚の皺を見る。わき腹、背中を指でつまみ脂肪の厚みを測る。深く息を吸い長い息を吐く。焦燥感が身体に張り付いた。耳を澄ましても誰の言いつけも聞こえては来ない。全てを一人で感じ、レスポンスしなければならない。
孤独感、やり場のない意欲、社会からの逸脱、そして恐怖、そのいずれの心の動きにも言葉が付き添っていないことに気付く。イメージは直接 感情と理解に繋がり、そのいずれも言葉になる暇を持たなかった。恐怖を言葉にする人が今までいたかを思索するが思い至らない。
瀬戸内は『プラスティック』と言葉に出してみた。
『プラスティックスプーン』
唯一、連想した言葉だった。
プラスティック・・・プラプラ・・・ティッ・・ティッ・・ティック・・・。プラスティックがそれなりの重さで頭に響いた。『プラスティック』は何度口にしても何ら攻撃的ではない。
瀬戸内は腕立て伏せをする。五〇回。布団の上でV字腹筋をする。五〇回。スクワットをする。五〇回。背筋をする。五〇回。
白衣を着た白髪の男に諭される。
「そんな事しなくてもいいんですよ」
「いや、それはしなくてもいいのだから、してもかまわないのかな?」と瀬戸内が言う。
「しなくてもいいと言ってるんです」
「してはいけないのかな? 心に反しているよ?」と瀬戸内が言う。
「心を直せばよいのですよ」
言いながら白衣は瀬戸内の上腕を掴む。柔らかい上腕の内側を強く触られて不機嫌に瀬戸内が言う。
「心を直すのは腕立て伏せをしないという事と関係があるのかな?」
「統計的に」と答えた。
「僕がそれ
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