暗雲は天を翳らせ
[8/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
を移していたのなら、綿密な計画を立てていなくとも間違いなく私はそれを選ぶ。
足りなかったのは内部の把握だけ。敵を知り、味方を知れば……これは一重に徐晃の失態だろう。
自然と口角が持ち上がっていた。抑える事もせず、鏡に映した自身を覗き、心の内側を溢れ出させる。
――矛盾し続けるあの男に認めさせたい。この私こそがお前の主に相応しいのだと、私自身を……そして私の作り出している全てを見せて示したい。けれど……想いの首輪は重厚。死刑台へ向かう囚人のように絶望の道を歩くというのなら、もう止めはしない。覇道を彩る華となり、私の心で生き続ければいい。
自分でも知っている。
同じ覇道を歩まんとするモノなのだ。大陸をその手に治め、世に悠久の平穏を願う者なのだ。
想いの鎖がどれだけ冷たいモノであるのか、私にしか分からない。その高みに昇る為に何を切り捨てる覚悟が必要かも、私にしか分からない。
だからこそ……欲しい。才では無く、在り方として。
思考を打ち切って、パタリと机に立てた簡素な化粧鏡を伏せた。
「さて、私の存在の写し鏡を手に入れましょう。真なる覇王はこの大陸に私一人。劉備では成り得ないのだから……お前は最初から間違っていたのよ、徐晃」
誰に言うでもなく言葉を零し、椅子から立ち上がり、静かな期待に高まる胸をそのままに謁見の間へと歩み始めた。
謁見の間、仕切り布で区切られた待機場所の椅子に腰を下ろしている愛紗は、目を閉じてただ時を待っている。これから行われる謁見での交渉に意識を向けて、決して気を抜くことはせずに。
単騎で曹操の元に駆けられるモノは星か白蓮、鈴々か愛紗であった。白蓮と星は仲間になって間もなく、密盟を断られたという事から使者には宛がえなかった。
鈴々では交渉は苦手なので不可能。朱里は部隊を動かさなければならない為に離れられず、桃香は主である為に論外。
では愛紗は、となるとどうであるか。
ある程度ならば、愛紗が居なくても戦場を持たせる事が出来る。総力戦のような決戦には余程の事が無い限りなりはしない状況であるが故に。
次に人柄。
彼女は飛び抜けて頭がいいわけでは無い。しかし悪いわけでも無い。
ヒステリックに誰彼かまわず否定するわけでも無く、主にさえも厳しい意見を残す事があるのだ。
例えば、無礼な輩に高圧的な態度を示さなければその主はどう思われるであろうか。彼女の一面に対して目が行くモノは浅はかと言える。覇王であれば、非礼と知りつつも無礼を咎めるモノが仕える主なのだと評価が上がる。
例えば、彼がしている事を誰かが否定しなければ、人の善なる心を曖昧にしてしまい、理想を追い続ける為の信念がぶれてしまう事はないか。善性だけを推す事は悪手だが、それを信じてこそ人は善性
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ