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久遠の神話
第九十八話 道場にてその一

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            第九十八話  道場にて
 遂にだ、この日が来た。
 樹里はその朝上城と共に登校しながら彼に問うた。登校中でまだ一日ははじまったばかりだ。この長い一日が。
「今日よね」
「うん」
 上城は一言で答えた。
「そうだよ」
「遂に来たのね」
「来て欲しくなかったみたいだね」
「だって、中田さんとの闘いだから」
「これまでもあったじゃない」
「あったけれど」
 それでもだというのだ、今日の闘いは。
「これまでとは違うから」
「そうだね、何しろね」
「命のやり取りよね」
 まさにそれだとだ、樹里は彼女がこれまで生きて来た中で最も深刻な顔になりそのうえで上城に言ったのである。
「本当に」
「そうだね、まさにね」
「だからよ」
「僕に死んで欲しくないのかな」
「当たり前よ、それに」
「それに?」
「中田さんもよ」
 彼にも死んで欲しくないというのだ。
「あの人もね」
「二人共なんだね」
「私上城君を大切に思ってるし」
 やや俯いてだ、樹里は言った。
「それに中田さんも素晴らしい人だと思うわ」
「立派な人だよね」
「ええ、だからね」
「僕も中田さんも」
「生きていて欲しいから。まして」
 中田についてだ、樹里はこうも言った。
「折角ご家族が起きてくれて」
「幸せにね、家族で」
「また暮らせる様になったのに」
 それがだというのだ。
「どうして闘うのか」
「それはね、剣道家だからだよ」
「中田さんが」
「そして僕もね。僕は剣道家って言える程偉くはないけれど」
 上城もこう言うのだった、こうした言葉は自分から言うものでないという考えもあってそして自分は剣道家の域まで至っていないと考えているからだ。
「それでもね」
「剣道をしていれば」
「うん、強い相手と剣を交えたい」
「そう思うのね」
「格闘技や武道をしているとね」 
 剣道に限らず、というのだ。
「そう思うみたいだから」
「だから上城君と中田さんは」
「加藤さんはまた別みたいだけれど」
 彼の場合はただ戦いたいだけだ、戦闘そのものに快楽を見出し感じているからそこは二人とは違うのだ。
「けれどね」
「上城君達はなのね」
「そう、剣道をしているから」
 それ故にというのだ。
「闘うよ」
「そうするのね」
「実は僕もね」
「上城君も?」
「中田さんはとても立派な人だから」
 人間として尊敬出来るというのだ、その器の大きさを感じ取って知っているからこそここでもこう言うのだ。
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