第十一章 追憶の二重奏
第六話 咆哮
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』の見上げる。
「一体何だってんだい……」
細かく震える警備兵の声の先では、『シャルル・オルレアン』号から鉄塔に延びるタラップの上、儀仗兵に囲まれ楽団の奏でる演奏の中を進む遠目からでも目に鮮やかな青髪を持つ偉丈夫の姿があった。
『実験農場』の中は薄暗く、何よりも蒸し暑かった。
その原因は『実験農場』を覆う帆布に振り注ぐ春の陽光により温められた熱と、『実験農場』内に幾つも設置された釜や溶鉱炉から発せられる熱気である。真夏日を超える温度や、窓がなく出入口が常に閉め切られていることから『実験農場』内は風の通りは全くと言ってないことから、『実験農場』内の不快指数は留まることはない。ただ中で立っているだけで全身から汗が吹き出るような誰もが顔を顰めるようなそんな場所であった。その証拠に広い『実験農場』の中を動き回る研究者風の男や鍛冶師の男たちの顔は誰も彼も汗だくで苦しそうに歪んでいる。しかし、そんな中一人歩く青髪の男の様子は少しばかり違った。汗だくなのは同じであるが、その顔には何の表情も浮かんではいない。熱気に対する不快な表情も……笑みも浮かんではいなかった。
メイジの研究員が囲む溶鉱炉の横を通り過ぎ。何人もの鍛冶師が十メートル四方はある巨大な鉄板を打ち出している横を一人進む青髪の男が辿り着いた先は、『実験農場』の中心部と思われる開けた場所であった。そこには貴賓席が設けられており、その横には青髪の男の腹心の姿があった。
「ご足労ありがとうございました」
青髪の男の姿を目にした腹心である深いフードを被った細身の女は恭しく頭を深く下げた。
「いや、いや。例のものが完成したとなれば、いてもたってもいられないからな。我慢できず飛んできてしまった」
顔を左右に振った青髪の男は、フードを被った女―――虚無の使い魔の一人であるミョズニトニルンから離れた位置に立つ痩せた男に視線を向けた。
「難航していた『ヨルムンガント』の完成だけでなく、アレについてもビダーシャル卿の協力があってこそ完成することが出来たと聞いた。どれだけ感謝しても足りないな」
「…………」
「―――貴様」
何の反応も示さない痩せた男―――ビダーシャルの様子に、ミョズニトニルンは激昂しフードの下で射殺すような視線をビダーシャルに向ける。と、今にも襲いかかりそうなミョズニトニルンの視線を遮るように青髪の男の腕が差し出された。
「ふむ、何か不満があるようだね?」
「……『ヨルムンガンド』に関しては別にいい。だが、アレは一体何だ……ッ!」
目深に被った帽子の奥から底冷えする眼光を向けながら、ビダーシャルは震える声を上げた。
声が震える要因は、怒り―――ではなく恐怖であった。
ハル
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