第十一章 追憶の二重奏
第六話 咆哮
[8/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
返事を返すことなく、腕を組んだ士郎は考え込むように目を瞑る。
目を瞑り、五、六秒程たった後開いた士郎は、小さく、しかしハッキリとアンリエッタに向け頷いて見せた。
「……分かった。アルビオンに行こう」
「っ、シロウ」
「……ありがとうございます」
背後から非難混じりの声を、正面から安堵が混じった声を耳にしながら士郎は視線を窓の外へと向けた。
「しかしアルビオンか。船で行くとなると随分時間がかかるな」
アルビオンまでへの道行を思いため息混じりの声を漏らす士郎の背中へ、静かな声が向けられる。
「シルフィードがいる」
肩越しに振り返った士郎の視線が下へと向けられる。
そこには自分の身の丈程ある杖を抱きしめるように持ったタバサが立っていた。
「いいのか?」
「大丈夫」
いつもながらの無表情のままコクリと頷くタバサに感謝の笑みを向けた士郎は、アンリエッタに向き直る。
「なら、善は急げだな」
「帰りはロサイスまでの船を用意させておきます。帰りはそれに乗ってください」
「了解した」
去っていく士郎たちの背中を見つめるアンリエッタの目が、その中の一人に向けられる。何時もならば士郎の一番傍にいるはずの友人の背中に。何処となく肩が落ちた背中を見せる友人の姿に、しかしアンリエッタは何も口にせずただ見つめるだけであった。ドアが閉まり、部屋に一人残されるアンリエッタ。結局アンリエッタはルイズと一度も言葉を交わすことはなかった。誰もいなくなった部屋の中、アンリエッタは窓に近づくと窓を微かに開く。指を通らない程小さな隙間から風が流れ、髪を揺らす。
「……これで……本当に良かったのでしょうか」
その問いに答える者は誰もいなかった。
ガリアにある海沿いのレンガ造りの建物が立ち並ぶとある街―――サン・マロン。
レンガ造りが基本の街並みの中には、一際目立つ鉄塔のような建物があった。それは空飛ぶ船の発着場。しかし、ただのではなく、ガリア空海軍のための発着場である。そんな軍基地を収めた街から少しばかり離れた場所に、不可思議な建物があった。円柱を縦に半分に切断し、切断面を下に寝かせたような形の、一見すればテントのように見えるそれの何が不可思議なのかと言うと、まず何よりも大きさが桁違いであった。その建物の前には、市街地にある基地に設置された船着場である鉄塔と同じ大きさの建物の姿があったが、その鉄塔が三、四本ほど入る程の大きさはある。
その巨大なテントとしか言い様のないモノの周りには、市街地の基地よりも多い衛兵が警備に立ち、近郊に住む住民が容易に近づけない有様であった。
警備に立つ衛兵の一人が、空から迫る風を切る音と地面に広がる影に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ