第十一章 追憶の二重奏
第六話 咆哮
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ョズニトニルンはコロシアムに近づくと、軽く手を上げる。
と、
「さて、もう一つの『騎士人形』はどれほどのものかな?」
ヨルムンガンドが背中を向けている北側の柵の奥から一体の人形が姿を現す。人形は人の腕ほどもある太い鎖を引きずっていた。
簡易の土ゴーレムではなく、騎士甲冑を身に纏った人形である。一見すれば普通の人間のように見えるそれは、『スキルニル』と呼ばれる血を吸った人物に変化することが出来る古代の『マジック・アイテム』であった。
ジョゼフが口にした『騎士人形』とは『スキルニル』のことか?
いや、そうではない。
現にジョゼフの目は姿を現した甲冑を身に纏う『スキルニル』ではなく、その人形が手に持つ鎖の先を見ている。未だ柵の奥から姿を見せない鎖の先へと。
ジャラジャラと鎖の立てる音がコロシアムに響き、遂に鎖の先に繋がれたモノが姿を現す。
―――それは柩であった。
暗く、闇色に塗られたそれは、コロシアム内を照らす魔法の光を鈍く反射させ、ギラギラとした輝きを見せている。明らかに木製ではなく、金属で出来ていた。その通り柩は木ではなく鋼鉄で出来ていた。柩は鎖で巻きつけられており、引かれる度に鎖と柩の隙間から金属の擦れる不快な音が響く。
「随分と念入りだな」
「はい。柩だけでなく鎖にも『固定』の魔法を掛けております」
ジョゼフの言葉に、ミョズニトニルンが答える。ミョズニトニルンの言う通り、メイジの手により柩とそれに巻きつけられている鎖にも『固定』の魔法も掛けられていた。それは過剰なまでであり、例えヨルムンガンドが鎖を引っ張ったとしても引きちぎれないほどの強さがあり、同じく柩も容易には壊せない程の強度があった。
コロシアムに柩が完全に姿を現すと、『スキルニル』は鎖から手を離し柩に向かう。
『スキルニル』が柩の横に立ち、鎖を外そうと手を伸ばし―――
―――ッ―――ギ―――ュ―――……。
手が生えた。
『スキルニル』の背中から。
『固定』の魔法が掛けられた柩から生えた腕が、『スキルニル』の背中から生えていた。
感情が無いはずの『スキルニル』が不思議そうに背中から生えた腕を見やり―――その顔が吹き飛んだ。
「―――クハッ」
ジョゼフの口元が歪に歪み、澱んだ笑い声が漏れた。
ジョゼフの視線の先で、柩から生えた『スキルニル』の頭を吹き飛ばした腕と、腹に突き刺さったままの腕の姿が消え―――と、金属がひしゃげ砕け散る音を響かせながら、柩の蓋が消し飛んだ。
柩の縁に手が掛かり、ゆっくりと中からナニカが姿を現す。
それは一見すれば人間の形をしていた。
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