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Trick or treat?
狼の子と女の子
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ルヴァーナ」


「おはようございますっ」


 慣れた手つきでスコップで雪を道の角へと除けていると、子供たちを学校に送り出した何人かのマダムたちがそう声を掛け、いそいそと村一つの共同井戸に籠いっぱいの洗濯物を抱えたまま歩き去っていく。

 あの中にいつかは本当の意味でデビューするであろう未来に、思わず目を細めてしまう。

 出来立ての商品を陳列してから学校の周辺を先生方に混じって除雪していたら、店先に戻ってきた頃には開店一時間前になっていた。

 それでもまだまだ世話になるイザベラや行く行くは入学するノアや産まれたばかりのあの子のことを思えば、つい自分が出来ることはこれくらいだと鞭を打った結果、すっかり掌が悴んでしまった。


「何やってるの?」


「えっ…」


 スコップを雪に差し込み、両手を交互に眺めている時、先程マダムたちに声を掛けられた方を見遣るとコンラッドがこちらに向かって歩いてくる所だった。


「おはよう。今日はお仕事はお休みなの?」


「……何でそうなるの?一応仕事帰りだけど」


「?……でも、まだ朝じゃない」


 そこまで言ってから目の前の彼が頭を左右に振っているのに気づき、ムッとする。

 やはり意地の悪い所は好きになれない。


「俺の仕事に時間なんて関係ないよ。あるのは如何に巧く狩るかだけ」


 そう意気揚々と瞳を輝かされるとリアクションに困る。

 見た目は自分と同じくまだまだ子供なのに、すっかり猟師の一人としてデビューしている。

 そう言えば、先日父と夫とその兄弟、計四人で仕事に行ったとミレイザが話していたのを思い出す。

 鹿の親子が草を食んでいたのにも拘らず、彼が標準を定めたのは同じく木陰に隠れてそれを狙っていた狼の足元だった。

 当時、コンラッドは「やっぱり兄たちや義父さんには到底敵いません」と言っていたそうだが、妻にだけは苦笑交じりに本当の理由を話し出した。

 彼は生まれつき猟師の才を色濃く受け継いだが、その芽が蕾を持ち花を咲かせるのにはあまりにも幼すぎた。

 周囲に持て囃され、すっかりその気になってしまったコンラッドに真夜中の視界の利かない暗闇ではさすがに獲物を狩るのは無理だろうと、誰かが囁いた。

 ムキになったコンラッドは家を飛び出し……。


「痛っ?!」


「ルヴァーナっ!!」


 そこまで思い出して激しい頭痛が彼女を襲う。

 額を両手で押さえるとひんやりとしていて気持ちが良い。

 どうやら、学校から店先まで除雪作業をしていてすっかり風邪を引いてしまったようだ。

 両手で押さえていても尚、鈍い痛みが脳内を侵す。


「大丈夫?」



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