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少女1人>リリカルマジカル
第五十一話 思春期D
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っと彼女に杖を振り続けさせていた。


「―――ッツ!」

 突然震えだした端末に、彼女は驚きに身体を固める。そして慌ててデバイスを待機状態に戻し、ポケットから通信を知らせる端末を手に取る。少し乱れていた金糸を整え、汗を拭っておく。呼吸を落ち着けると、彼女は急いで受信のキーを押した。

「やっほー、どうしたの?」
『あっ、アリシア。もう、どこにいっちゃったのかと思ったよ』
「ごめんね、メェーちゃん」

 えへへ、と恥ずかしそうな笑い声を聞き、それにメリニスは仕方がないなー、と肩を竦めた。端末にはテレビ電話のような機能がついているので、連絡を取り合う時には、これを使うのが当たり前であった。映像はリアルで送ることもできれば、その人物の画像のみをアップすることもできる。

 端末で友人と楽しそうに話をする少女、アリシア・テスタロッサ。明るく笑顔いっぱいの彼女が、そこにはいた。悩みも影も全て覆い隠すような、微笑み。立派な姉として、弱い自分を見せたくない。心配をかけさせたくない。だから、彼女は笑ってみせた。

 彼女のすぐ近くには、そのお手本がいた。いつも笑っている、笑ってみせるそんな人物を。アリシアは、ずっと彼の背中を見ながら成長してきた。それは彼女にとって、もはや当たり前となってしまっていた。

『今日の午後の講義だけど、第3実習室に変更になったんだって。今教室にお知らせが来たから、伝えようと思って』
「えっ、本当? ありがとう。遅れないように行くね」
『うん。学校を探検するのもいいけど、ほどほどにね』
「むぅー。今の季節は色んなお花が植えられているから、とっても綺麗なんだよ。クラ校ってすごく広いしね」

 ふらふらすると、新しい発見ができる。当たり前だと見落としてしまうものを、また見つけられるんだ。放浪好きの兄がよく言っていた言葉。アリシアはそれを思い出し、クスリと思わず笑ってしまう。だけど、すぐに視線を地面へ静かに落とした。

 兄を使って、嘘をついている現状。休み時間や放課後にふらりとみんなから離れるようになって、3ヶ月が経った。メリニスも友人たちも、兄も心配そうにアリシアに声をかけることが増えただろう。それに、申し訳なさと、嬉しさと、……放っておいてほしい気持ちがあった。

『ねぇ、アリシア』
「ん?」
『……待っているね』

 メリニスはそれだけ言うと、通信を切る。相手が映し出されなくなった画面に、アリシアは端末の電源を落とした。彼女の友人は、いつもこうだ。見透かされているようで、なのにそっと支えてくれる。優しくて、頼りになる、大好きな人たち。

「だから、……早く追いつかなくちゃ」

 端末を再びポケットの中に入れ、手の中で鈍く光るデバイスに視線を戻した。



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