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乱世の確率事象改変
従うモノ達の願いは
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していった。

 ただ、彼らは知らない。
 遥か前方、幾多ものなだらかな丘を越えた先、悠々と楽しそうに笑う男がどれほどまでに悪辣であるのかを。
 


 †



 第一戦闘はつつがなく終えられた。被害は軽微と言える。幽州の戦で非道策を聞いていたから毒の心配をしていたがそれも無かった。
 徐晃隊に叩き込んでいた対弓部隊防御戦術はなんとか上手くいったようだった。
 約三千の部隊の半数は弓兵、半数は槍兵で構成されていたが主だった将は居らず、郭図もいなかった。
 どうやら一当てして逃げるつもりだったらしく、弓を放ってからの敵は逃げ一辺倒だった。徐晃隊の練度のおかげで敵の壊滅は容易だったが。
 逃走するモノも合わせて七割がたの数を減らせたので殲滅は行わず、一応どの道に逃げて行くのか兵を監視に当てさせておいた。
 戦闘後の休息を取って一刻後に行軍を開始し、月光に跨りながら先の戦闘の様子を思い出していると、副長の馬の後ろに乗っている雛里が俺に知性の籠った瞳を向ける。

「敵は徐晃隊の最大兵数が七千だと聞いていたはずですので、私達の数を聞けば連続戦闘での士気低下を次の狙いにしてくるかと」

 雛里の予測能力に舌を巻く。彼女が言いたいのは奇襲にしては敵の数が余りに少なすぎるという事だ。
 つまり、先程の戦闘は威力偵察の意味が籠っている。こちらの数がどれくらいか、どの程度の力を持っているのか。そして少しでも数を減らす為に弓兵、追撃と騎兵防御の為に槍兵を送り込んだわけだ。
 現状からの展開を考えて、ゾクリと寒気が一つ。気付いてしまえば早かった。

――そこまで手回しが的確なのか。戦略思考の高さが違い過ぎだ。

 焦りを見せないように、気にしていないというよな無表情で、どうにか言葉を紡いでいく。

「なら、ゆっくり進むと今より拙い事態に追い詰められる」
「はい。兵数は向こうが圧倒的だと思われますので長い時間を掛けていられません。分岐後に最速での駆け抜けが必須でしょう」
「やっぱり……騎馬隊では無い徐晃隊では、迅速且つ被害を軽微に抑えて逃げ切る事はまずありえないという事か」

 コクリと雛里が頷いて、副長が静かに目を瞑る。続く徐晃隊の面々達からは集中する為の大きく息を吐く音が聴こえた。
 皆も分かっていた。これは絶望の戦場へと変わったのだと。一丸となって抜け、追撃を振り切る為にあの策を使わなければ全滅は確定的なのだと。
 知らない内に絶望の選択肢しか残されていなかった。敵の策というのは、気付いた時には決まっているモノなのだと今、初めて思い知らされた。
 敵の行軍速度を予測しすぎ、初めから一度の戦闘だけだと多寡を括っていたのが不味かったか。先読みしすぎるとたった一つの誤差から全てが悪い方へと向かっていくんだな。

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