従うモノ達の願いは
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腹を強く蹴る。それを受けて、相棒が大きく前脚を上げると恐れた敵兵が下がってほんの少しだけ間が出来た。
馬蹄が着いた瞬間、爆発的な速度を出して月光は地を駆り、一気に敵兵の間を切り広げて行く。
腕は重く、疲労から身体も気怠さがそこかしこにあった。それでも、諦める事は無く、生き残る事だけに意識を向けて行く。
罠があるならば、俺が確認してこよう。矢の雨であれ、火の壁であれ、俺と月光ならば耐えられるし抜けられる。
先にそれを行わせる事が出来たなら、部隊の奴等の被害は軽微に抑えられるだろう。
一人、二人、三人……幾人もの兵を斬り飛ばし、吹き飛ばし、血路を開いて進む先……月光の上から敵の部隊に切れ間が見えた。
予想通り、その向こうに構えるのは間を開けて列を為した弓兵。現在、後続の徐晃隊との距離は少し開いている。しかしあいつらなら問題なく抜け切れる事は分かっている。
矢というモノは、味方が邪魔だと曲射は出来ず、俺が抜ければ直射を行うしか無く、この間隔ならば単騎で掻き回すには足り得るだろう。
己が判断を信じて駆け抜けること幾分――――遂に敵の壁を突破した。
そこで……鳴るはずの無い、俺達にとって聞きなれた音が戦場に鳴り響いた。
一斉に吹かれた笛の音。
金属の音……では無く、竹を通した懐かしい音。平原で自らが広めた民を守る為のモノ。子供達を守る為に俺が作り出した最初の道具。
混乱を狙ったのならば下策。徐晃隊の奴等は音で命令を聞き分けているからそれに騙される事は無い。ましてや、攻撃主体の時に鳴らすモノでは無い故に、バカ共は間違うはずもない。
ただゾワリと、殺意が心に沸き立った。
――子供を守るためのモノを……人を殺す為に使ってんじゃねぇよ。
ギリと歯を噛みしめながら睨みつけて駆ける。直射の合図にでも使ったのだろう。
しかし敵兵は俺の予想とは全く異なる行動を起こした。
袁紹軍は……未だ徐晃隊が抜けきっていない、味方の兵が立ち並ぶその場所に……面としての矢の雨を降らせた。
直射の矢は一本も無く、俺を狙わずに、敵味方の区別なく、只々バカ共を殺す為にそれは行われたのだった。
思考に潜る事も、呆気にとられる事も無く、俺は反射的に振り向いてしまった。
何故かスローモーションに堕ちて行く矢は途切れる事が無く、第二射も、第三射でさえもそれに当てているようだった。
まだ遠く、宙を見上げている副長と雛里が見える。
大声で怒鳴る副長に、すっと……俺に視線を移す雛里。
遠いはずなのに、彼女の瞳の色が良く見えた。
大好きな翡翠の色は影を落とし、迫りくる死の恐怖に支配されていた。
そこには鳳凰は居らず、俺が守りたいモノの姿だけがあった。
その色を見てしまうと、俺は
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