七十一 月の砂漠
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夢をみていた。
それは永く短い、儚く尊き願い。
どれほど焦れ、幾度も望み、いつ何時もこいねがった。
彼女の、たった一つの望み。
気がつけば、周囲は闇に包まれていた。
突き抜けるような空、青々と茂り風に靡く草、踏み締める土…そんなもの何処にも在りはしない。上も下も右も左も無く、天地すら存在しない無の空間。
此処が天国なんか地獄なのか。はたまた夢なのか現実なのかも、彼女にはどうでもよかった。
何も見えず、何も聞こえぬその場で、ひとり蹲る。放心状態で無気力に座り込んでいた彼女はふと眼をうっすら開いた。
目前に広がるのは常闇の世界。
どれだけ眼を凝らしても果てなど無いだろう暗黒の中、己が闇に溶け込んでいない事実に彼女は安心感さえ抱いていない。むしろ虚ろな眼でぼんやり眺めるその顔には翳りがあり、正気の色すら窺えなかった。
不意に、立ち眩みを起こすほどの眩い光が双眸に射し込んだ。顔を上げると、何も無かったはずの空間に窓がぽつねんと浮かんでいた。
忽然と宙に現れたそれには、純白のカーテンが掛けられている。風も無いのに波打つその白に彼女は眼を瞬かせた。
それはかつて、混濁する意識の片隅で見た一幕。
窓の傍らで佇み、穏やかな眼差しで微笑む。ほぼ全身をカーテンに覆い隠されているにも拘らず、脳裏に色濃く焼きついたその姿はあの時と全く同じだった。
まるで其処だけが時間を遡り、別の空間から光景の一部を切り取ったかのような。
とてつもなく惹きつけられる情景。
(やっと……)
不可解な現象に戸惑うより先に、彼女の全身は歓喜に打ち震えた。
息をする間さえ惜しい。カーテンの裏に佇むその姿を見つめる。
どうしようもなく逢いたくて、再会を夢見てきた。
その存在が、今、目の前にいるのだ。
(やっと…)
常闇の世界で唯一輝いている。一条の光を身に纏った彼の顔はよく見えない。
それでもあの、月の如き金の髪と吸い込まれるように澄んだ青の瞳は忘れようもなかった。
なぜなら自ら心と魂に深く刻みつけたのだから。
決して忘れぬように、決して消さぬように、決して失くさぬように。
(やっと、)
手を伸ばす。震える指先がカーテンの裾を掴んだ。一気に開け放つ。
(―――会えた…っ)
刹那、彼女は目を覚ました。
「―――アマル!!」
必死の治療の甲斐あって、意識が戻った弟子へ真っ先に声を掛ける。アマルの瞼がゆっくりと押し上がる様を、師と姉弟子は固唾を呑んで見守っていた。破顔する。
「気がついたんだね…っ!よかった…ッ!」
「綱手様も私も心配したんですよ…っ!!」
アマルの覚醒に喜ぶ綱手とシズネ。胸を撫で下ろす彼女達は
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