瞬刻の平穏
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ぼ同時に、平時の自分を閉じ込めてしまおうと手を離していた。
くくっと喉を鳴らし、彼女の方を向いた秋斗はニッと微笑んだ。
「さあ、行こうか。ここを曲がれば俺達はバカ共と一緒に戦う黒麒麟と鳳凰だ。でも……そうさな、非日常に繰り出す前に言っておこうかな」
首を傾げる雛里は彼が何を言おうとしているのか予測出来ず。
秋斗は悪戯っぽく笑いながら、濁りの無い綺麗な漆黒の瞳を向けて、
「これまで死んでいった人の為に、これから殺してしまう人の為に、生き残る全ての人の為に、そして俺自身の為に……俺と一緒に世界を変えてくれ。この乱世が終わってもずーっとな」
己が想いを口にする。最後に、綺麗な笑顔に変わって、
「お前を愛してる、雛里」
ただの秋斗としての想いの欠片をそっと渡した。
一瞬の硬直の後、顔を赤くして目に涙を溜めた雛里はコクコクと何度も頷いた。
まだ伝えられないのなら、先に自分だけもう一度伝えてやろうという秋斗の悪戯に、
――私も、あなたの事を愛しています。秋斗さん。
心の内で返していた。
ゆっくりと秋斗は背を向ける。ぎゅっと目を瞑って抱きつきたい衝動を堪えながら、雛里は後ろを着いて行く。
整列する徐晃隊の前に立った二人は幸せに満ちていた。その穏やかな雰囲気に、徐晃隊の面々からは息が漏れ出る。
彼らは最も長く付き従ってきたモノ達であるが故に察していた。漸く、御大将は自分から幸せになろうとしているのだと。
副長と十数名、最古の徐晃隊の者達は特にその違いを感じていた。在りし日の、幽州で初めに出会った優しい男に戻れたのだと。
静かに礼を取る副長の横に並んだ時、繋がった絆から来る偶然であるのか、二人は同時に目を瞑る。
後に、開いた目には凍えるような冷たさを宿しており、彼らは既に切り替わっていた。ピシリと張りつめた空気に、彼らを見やる全ての者達も意識を切り替えて行く。
「これより袁紹軍撃退の為の行動を開始する。いつも通り心に刻め、俺達の想いを!
乱世に華を! 世に平穏を!」
『乱世に華を! 世に平穏を!』
夕暮れの橙が照らすその場には、黒麒麟と鳳凰しか居らず。
まほろばでの出来事のような一時を心の中にしまって、二人は人々が願う平穏の為の化け物となり、住処たる戦場へ向かって行く。
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