瞬刻の平穏
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であれば、溶け合うように互いを求め合う事も許されたであろう。漸く通い合った想いを確かめ合い、育み合い、貪り合い、己が全てで伝え合う事も叶ったであろう。
しかし迫る問題は重く、二人の欲を無理やりに抑え付けさせる。
優しく微笑んで、くしゃりと雛里の頭を撫でた秋斗は、彼女を緩く抱きしめ耳元でボソリと小さく想いの欠片を渡し、それを受け取った雛里もポツリと想いの欠片を彼に返した。
また身体を少しだけ離して数瞬、名残惜しそうに見つめていた雛里から、突然口付けを落とされた。
呆気に取られた後、悪戯っぽく舌をペロリと出してから満面の笑顔で幸せを表現する彼女に、
「クク、雛里には敵わないな」
いつも通りの言葉と笑顔を秋斗は返した。
それを受けてじわじわと、雛里は自分達が行っていた行為がどのようなモノかに至って反芻し始め、そして交し合った想いが嬉し過ぎて最後に自分から行った大胆な行動を思い返して、みるみる内に顔を茹で上がらせていった。
「あわわぁ〜」
風船から空気が抜けるように……ふにゃり、と床に座り込む。
恥ずかしすぎて顔を両手で覆い、あわあわと呟き続ける雛里が愛らしくも可笑しくて、小さく苦笑した秋斗はまた抱きしめたい衝動に駆られそうになるも、気を持ち直して片手を差し出した。
「そろそろ徐晃隊の準備も終わった頃合いだろうから行こうか」
もじもじと小さな身体を揺すり、両手の指を開いた隙間から秋斗を覗いて、再度顔を赤らめた雛里は……彼の顔を見ないように俯きながらその手を取って立ち上がった。
「しょ、しょの……秋斗しゃ……う〜っ」
手を離され、言葉を紡ごうとするも、恥ずかしさと緊張からどうしても彼の事を意識してしまい上手く喋れず、目をぎゅっと瞑って堪える。
――お前は俺を萌え死にさせるつもりなのか。……今は我慢しなきゃならんのだから勘弁してくれ。
その可愛らしすぎる仕草に、秋斗は暴走し始める自身を律するのに必死であった。
ふるふると頭を振るってどうにか追い遣り、胸の前で手を握りしめながら震えて身悶えている雛里の手を再度取った。自身も少しだけ、恥ずかしさと緊張に跳ねる心臓を誤魔化しながら。
「あわっ! し、秋斗さ――」
「何かあるなら歩きながら聞こう。それと、さっきのもあって恥ずかしいが……雛里が居る平穏な日々をちょっとでも感じさせてくれ。戦前にどうかとも思うけど先の事を考えると、な」
「ひゃ、ひゃい」
珍しく顔を赤らめた秋斗は本心を口にしながらも雛里の顔を見れずに目を逸らす。
噛みながら返事を行い、隣を歩きつつチラと彼を見やった雛里は小さく笑う。彼のそんな姿が愛おしく感じて。
伝え合った想いも、通じ合った心も、無言で手を繋いで歩きながら確かめて行く。
雛里
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