瞬刻の平穏
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まにしゃくりあげるだけであった。彼女は一度甘い理想に溺れている為に、どれだけ今の状態から変わる事が困難か把握している。
――秋斗さんは……白蓮さんと再会したから、より強固に桃香様を信じてしまった。彼と同じ選択を自分で行ったのだからと、理想の為に大切な誰かを切り捨てたのだからと。
でも……桃香様は現実を選ばない事もあるのに……逃げるで無く、迷うでなく、優しい王に成長してしまったから……変わらない事もあるのに。むしろ……
思考を回しても、今の状態では何をすれば彼に違う道を示せるか雛里には分からなかった。ただ、与えられる温もりを感じてしまうと……少しでも離れたくない気持ちが大きく溢れ出す。
――そうか……その時はこうすれば、きっと彼は救われる。だから……今は何も言わないでいい。
考えが幾つも浮かび、彼女の明晰な頭脳はどのような場合でも彼を支えられるようにと思考を向けて、一つの解へと行き着いた。
奇しくも、それは朱里の狙いと同じであった。齎される結果は違えども、伏竜と鳳雛の目指す所は一つであった。
その時の彼の絶望を考えてビシリと胸に痛みが走るも、雛里は歯を噛みしめてそれに耐える。
それでも耐えられなくて身体を離し、雛里は秋斗と目を合わせる。身体が離れ、秋斗も雛里と視線を合わせた。
ドクンと大きく胸が鳴った。向ける想いは交錯する事無く、視線に乗って真っ直ぐに互いへと伝わっていく。
見つめ合う事数瞬
悲哀に暮れる雛里の瞳は翡翠が揺れる。
寂寥が支配する秋斗の瞳は黒が渦巻く。
――どうか壊れないで。どんなになっても私がずっと支えますから。
これから起こるであろう事態を思って、彼女は自身の感情を抑える事が出来なかった。
――どうか哀しまないでくれ。平穏な世になったら、もうお前は傷つかなくていいから。
これから向かうであろう先を考えて、彼も感情を抑えようとはしなかった。
絡み合う視線は徐々に近づいていく。
雛里は高鳴る想いをそのままに、目を閉じた
秋斗は溢れる想いを抑え付けず、瞼を降ろした
それぞれに、無意識の内では無く、お互いに意識を向けたまま……
彼と彼女の影は一つに重なった。
互いの心を確かめ合うように、短い時間重なっていた影はほんの少し切り離されても
自然と、再び重なり合う。幾度も……幾度も……
どれほどか、温もりを感じ合えるようにより大きく、二つは一つになっていった。
思惑は決して交わらず、されども……二人の想いはたった一つだった。
口付けを交わし、お互いの顔がぼやける程の距離で見つめ合う度に、切なく甘い瞳を向けられて、跳ねる心臓と溢れる想い、そして沸き立つ欲。
平時
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