瞬刻の平穏
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曹操さんは……この先侵略を開始すれば手に入る土地を買うほど浅はかな方では無いですから」
「なら……何を対価に求める?」
一寸だけ笑いを含んだその声に雛里の心は冷えて行く。何を対価に求められるか、袁紹軍侵攻の報を聞いてから、彼女は頭の中でずっと考えていた。それを彼も承知の上だとなのではないかと予測を立てていた。
「……最低でも大徳の将、黒麒麟徐晃だけは……必ず求めると思われます。同盟の締結に対してお決まりの贈り物、それは綺麗な女の人や名馬と昔から決まっていますが……曹操さんの場合、欲しいのは戦乱の世を乗り越える為の有力な将なんですから」
彼女が行き着いた答えに数瞬の間を置いて、秋斗は肩を震わせて大きく笑った。乾いた笑い声は二人だけの部屋によく響いた。からから、からからと。
「クク、ははっ、あはははっ! そうだよなぁ……やっぱりそうなるよなぁ。俺が曹操の立場なら愛紗とか星みたいな有能な将を欲しがるだろうしなぁ。
俺が侵略も辞さない王なら土地なんかより人材が欲しい、どうせ侵略したら手に入る領地なんざそういう輩にとってはタダ同然だ。そんなもんは同盟の対価にすらなりゃあしない。それに……これだけ名が売れちまったんだ。徐州を手に入れたら安定させるのは容易いし他にも与えられる効果があるか。大徳の風評ってのは波状効果が多様過ぎるなぁ……実際の俺なんか雛里達に支えて貰わないと立ってられないちっぽけな人間だってのに」
憐憫と自嘲を含んだ秋斗の言は、楽しそうに紡いでいるが本心からである事が分かり、雛里の耳に突き刺さった。
来るのは歓喜と悲哀の背反した感情。彼に頼って貰えている事が嬉しくて、彼が弱っている事が哀しい。しかし彼が考えている事が読み取れて、悲しみの方が大きかった。
ゆっくりと、雛里は椅子から立ち上がって秋斗の元へ歩みを進める。一歩……二歩……三歩でぎゅっと腰に抱きついた。
「秋斗さんは……曹操さんの所へ向かうおつもりですか?」
震える声で告げる。求められたら彼がどうするのか、雛里には分からなかったのだ。頭では秋斗が誰の元にいるのが一番自由に出来るのか分かっているが、ナニカに引き摺られ続ける彼の思考は読めなかった。
抱きつかれても彼は何も言わず、大きく息を吐いただけだった。
しばしの静寂が部屋を包み、秋斗は抱きついている雛里の腕に優しく手を乗せた。
「雛里、桃香の選択ばかりに気を取られてちゃダメだ」
問いかけの答えとは別の事を話す彼はいつも通り。それを受けて、雛里は思考を回していく。
「同盟が確実に拒否される……という事ですか? でも曹操さんを引き込む為に本隊の早期撤退を行ったんですよ? お互いの兵の被害も抑えられてある程度の連携も取れますし、窮地の大徳を救う事によって曹操さんの風
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