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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十二話 奈落
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っていなかったのです。完全装備の陸戦隊の前に為すすべも無く圧倒され降伏しました。残っているのは目の前に有る高等弁務官府に逃げ込んだ貴族達だけです。
「如何しますかな? 我々は何時でも踏み込めますが」
シェーンコップ准将が総司令官代理に問い掛けました。楽しそうな声です。
「話し合いで解決します。これから私が中に入ると伝えてください」
「……」
はあ? 眼が点です。私だけじゃありません、シェーンコップ准将、リンツ中佐、ブルームハルト少佐、デア・デッケン少佐……。閣下、分かっています? 貴方は総司令官代理で貴族連合軍を叩き潰した張本人なんです。貴族達にとって閣下程憎い存在は他に無い筈です。それなのに中に入る?
「あそこにはマリーンドルフ伯が居ますし彼には娘が居ます。困った事にここへ同行している。戦闘になれば巻き添えになりかねません。話し合いで解決します」
意志は固そうです。シェーンコップ准将が肩を竦めました。総司令官代理が外見からは想像できないほど頑固な事を准将は知っています。私も知っています。
三十分後、総司令官代理、シェーンコップ准将、ブルームハルト少佐、デア・デッケン少佐、私の五人は高等弁務官府の中に入っていました。通されたのはあのパーティが開かれた部屋です。あの時は着飾った招待客が大勢いましたが今は目を血走らせた人間が……。気が重いです、嫌な感じがします。それなのに総司令官代理はにこやかな表情をしている、なんで?
「良く来たな、ヴァレンシュタイン」
言葉は歓迎していましたが粘つく様な口調には憎悪が有りました。変な髪形をした血色の悪い男性が総司令官代理を睨むような目で見ていました。それを見て総司令官代理がクスッと笑いました。
「ミハマ中佐、あの人はフレーゲル男爵です。ブラウンシュバイク公の甥にあたりフレーゲル男爵自身もそれを誇りに思っています」
フレーゲル男爵がちょっと誇らしげな表情を浮かべました。
「もっとも他に取り柄は有りません。髪型も変ですし」
シェーンコップ准将達が失笑しました。私も吹き出しました。フレーゲル男爵が顔を真っ赤にしています。
「貴様、殺されたいのか!」
フレーゲル男爵が脅迫してきましたがヴァレンシュタイン総司令官代理は“怖いですねぇ”と茶化しました。
「でも止めた方が良いと思いますよ。私を殺すと大変な事になる」
「……」
怖いです、総司令官代理が楽しそうに笑っています。
「同盟軍は包囲を解きますからね、フェザーン市民がここに押し寄せてくることになる」
貴族達がギョッとしたような表情を浮かべました。
「暴徒というのは軍隊とは違う、非常に残忍です。嬲り殺しにされますよ、ボロ雑巾みたいになります。マリーンドルフ伯、貴方も、貴方の御息女もです」
総司令官代理が視線
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