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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十二話 戦争の夏の始まり、或いは愚者達の宴の始まり
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ある程度の高度を保てば攻撃が届きません」
 首席幕僚が素早く応える。

「そうだろうな。ならば、其処から攻撃する事は可能だろうか?」
 聯隊長の試すような視線を受けて首席幕僚も怜悧な頭脳を巡らせる。
「攻撃ですか、それは……」

「難しく考えるな。例えば、水軍は北領で飛龍によって燭燐弾を使用した。
ならば霰弾はどうだ?いや、さらに小型の爆裂筒は?」

「――いえ、不可能でしょう。導火線の火は龍の飛行時には点火出来ません。
燭燐弾のように非戦闘目的ならともかく、戦闘目的となると信頼性の欠如に過ぎます」

「これを使用したらどうだ?」
 僅かに黙考し、反対した首席幕僚に連隊長が造らせた短銃用の爆栓を見せた。
「爆栓ですか?落下の際の衝撃で起爆を――それは確かにある程度は期待できるでしょうが
実用化できるものでしょうか?」

「多分まだ不十分だろうな。だが、砲兵の火力を削ぐには十分だろう。
玉薬に引火すれば十分派手な爆発が起きる。集中して爆撃を行えば統制を乱すには十分過ぎる」

「確かにそうですね」
 大辺首席幕僚も頷く。
「砲の援護が途切れた隙に猟兵が逆襲、ですか」
 香川情報幕僚も言葉を挟む。
「そうだな、騎兵も動かせる様になる。もしこれをやられたら砲兵部隊の態勢を建て直さないと天狼の二の舞だ。
あの時は積雪で足をとられたのだが、今度は爆弾だ。火力が削がれたら精兵も弱兵もない、銃兵・騎兵が戦闘を行う前に一方的に砲で叩かれ、騎兵どもに刈り取られてしまう」
 弱いところから叩くのが戦の常道である。〈大協約〉がなければもっと凄惨なモノに成り果てていたかもしれない。
「如何なさりますか?」
 首席幕僚は変わらず淡々と尋ねる。
「西津閣下には既に進言した。あの方もあり得ないとは思っていない――が、どうしようもない。やられたら兵を逃がし、終わった後に再編する位しか手が無い。砲が破壊される事は諦めるしかない」
 そう言い、聯隊長は珍しく苛立ちを露わにして、舌打ちをする。

「もう考えていたのですか――」
 首席幕僚が僅かに目を見開く。

「気になってはいた、それだけだ。気がついたのはついさっきで、確信したのはお前さん達が納得した時さ――遅すぎる、手遅れだ、俺らしく」
無感情に言い、細巻を取り出すと聯隊長は本部天幕から出ていった。

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