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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十二話 戦争の夏の始まり、或いは愚者達の宴の始まり
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まです」
「ご苦労。周囲は安全と考えて良いな」
 流石と言うべきだろうか、此方に顔を向けた時には不敵な笑みを浮かべ陰鬱とした様子は欠片も無い。
――崩れかけた大隊を取り纏めていただけの事はある。
香川が内心、頷いていると本部付きの導術士と話していた首席幕僚の大辺少佐が此方に歩いて来た。
「聯隊長殿、ようやく近衛総軍も配置についたようです。」
 聯隊長に囁く様に話す。
 可能な限り客観的な意見を述べてきた大辺首席幕僚すらそのように言うほど、近衛総軍の行動は遅遅としたものであった。集成第三軍は一刻以上も前に配置を完了し、周辺の偵察も念入りに行っている。このような有様では弱兵呼ばわりもけして不当だとは言えない。まさしく太平の世に産まれた軍であり、ある意味では<帝国>軍の抱く〈皇国〉軍のイメージの象徴のようなありさまであった。
「お飾りの御大将閣下に移動もまともに出来ない近衛。まったくもってたまらんな」
 聯隊長は、飄然と愉しげに笑みを浮かべている。
「まぁ今の所は、重砲隊の護衛が任務だ。偵察に手を抜かなければ十分対処できるさ。この作戦自体も奇襲に成功すれば当面は上手く運ぶ筈だ」
とそう云う姿は己に言い聞かせている様に見える。
 実際、単隊戦闘能力が高い新編部隊には相応しい任務だろう。過剰に分散しているわけでもなく、事実上の予備部隊として即応態勢で最前線から数里程度しか離れていない場所に待機しているのだから。
独立捜索剣虎兵第十一大隊も同様の意図で司令部の護衛を任じられているらしい。
「問題は龍州軍司令部ですね、司令長官どのはこの戦場を管制できるのでしょうか」
 五将家の人間達があれこれと動いているなかで龍州鎮台はその規模に比せずに発言権は小さい。参謀陣も五将家の閥に属しているものばかりだ。

「ふん、龍州軍司令部は、参謀陣が優秀だからな。あれはあれで良いのさ。
それに幸い第三軍の司令官閣下は少なくとも弾の下を知っている御方だ。それで十分に過ぎる」
 そう言って、聯隊長は鼻を鳴らす。流石に防衛の要の参謀となると各将家も優秀な人材を送りこんでいる。出兵に参加していない守原家とて随一の俊英である草浪中佐を戦務主任参謀に送り込んでいる。

「味方も問題ですが、私は〈帝国〉の龍兵が気になります。〈帝国〉軍がどのように扱うのか予想が出来ません。偵察用途かと思ったのですが、初期の揚陸戦で姿を見せていないことでそれは否定されたとみて良いでしょう、損害が大きい揚陸戦で適切な情報を得られる機会を逃す必要が理解できません」
 首席幕僚が薄い唇をなぞりながら述べた感想に幕僚の一部が頷いた。

「それならば考えてみろ、龍兵の強みは何だ?」
 馬堂連隊長が答えを促す。

「飛行する事でしょう。あまりにやりすぎると龍士には負担がかかりますが
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