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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十二話 戦争の夏の始まり、或いは愚者達の宴の始まり
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人の動きからおそらくは本営も設置されているであろうことが判明しています。
また、増援も揚陸を開始しつつあり、初期に与えた損害の補充も数的には回復していることから、後方支援も一定の水準には達していると龍州軍司令部として判断しております。
現在、<帝国>軍は緒戦の消耗を順調に回復しつつあり、明日には攻勢が再開される事は間違いありません」
 瀧川が言葉を切るのと同時に概要を帳面に書き込む音や、指揮官同士でひそひそと言葉を交わす声が入り混じる。
 温くなった黒茶でのどを潤し、将校達が静寂を取り戻した事を見計らい瀧川は再び口を開く。
「ですが、〈皇国〉軍とてこの集成第三軍、並びに近衛総軍が到着した事で戦況はかなり好転しています。
御存じのように、〈皇国〉軍は北から順に集成第二軍・近衛総軍・集成第三軍・龍州軍と展開しております。
一方で<帝国>軍側はというと予備部隊を未だに上陸させておらず、頭数だけならば〈皇国〉軍がやや優勢となっており、現在の優位を保てるうちに――即ち、内地侵攻の水際防御が可能なうちに――攻勢に出る事を龍州軍司令部としては決定しております。明日の未明から第三軍と近衛総軍を第21師団へ逆襲する為に投入し、軍規模の奇襲で得た優位をもって一気に東方辺境領姫の居る軍司令部と兵站集積所と、軍の弱点が集中している橋頭堡を占領し、決着をつけるつもりです」

確かに制海権を失い、戦列艦の支援を受けた時点で損害は与えても揚陸を防ぐことはほぼ不可能であった。ならばこれは次善の手段ではあった。もっとも、それでもあとわずかでも戦力があれば、と呻きたい気分ではあったが。

――敵の予備部隊の規模が分からないのが怖いな。だが先手を打てればどうにかなるか。後、一ヵ月、いや、半月もあれば剣虎兵の大規模な夜襲でより確実に優位をとれたのだが――
豊久の嘆きはある意味では剣虎兵の拡充が遅きに失した(実戦からの月日が経っていない事情を鑑みるのならばそれでも良くやっている方だが)〈皇国〉軍の嘆きでもあった。
事実、〈皇国〉陸軍は新設部隊も幾つか編成途中であり、後半月もあれば少なくとも前線に耐えうる練度を得た第十四聯隊と独立鉄虎第五○四大隊、捜索剣牙虎兵第十一大隊に加え、あともう一個大隊、剣虎兵大隊を前線に投入できただろう。
そうなったらおそらく、明日の払暁前に行われる奇襲は前衛部隊一個聯隊相当を編成表から消し去る事が出来ただろうし、それは攻勢を大いに助けるものになったに違いない。無論、最終段階に投入する騎兵について諸々の面倒があっただろうが、それも現在の計画においても微修正する程度で済んだ筈だ。なにより近衛も第五○一大隊を前線に出すこともできただろうから、損害を新兵で埋めた一個旅団を相手にしても、十二分に優位をもって戦いを進められるはずだ。
しかしながら実際は、事
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