暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十二話 戦争の夏の始まり、或いは愚者達の宴の始まり
[3/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
寄りの衆民が云う“本物”の将家であった。
 この戦争が無ければ将校の高等教育機関である帷幕院の院長を務めて退役(あがり)の筈だったのだが、戦時体制へ移行する中で西州公・西原信英大将が直々に西州鎮台副司令長官として前線に呼び戻したのである。これだけでも西原大将から厚い信頼を寄せられている事が分かるだろう。

「我ら第三軍は、反攻主力として払暁の作戦に参加する事となる。現在の全般状況を含めて龍州軍司令部派遣参謀から説明をしてもらおう」
 軍司令官の言葉に答え、痩身の男が立ち上がった。
「龍州軍司令部情報参謀の瀧川です」
 中佐の階級章をつけた男が皆に目礼をすると説明を開始する。
「まずは<帝国>軍の動向に関連する全般情報からお伝えします。
現在、この龍口湾周辺に展開している主戦力は二個師団をから構成されております。
北方方面に第15重猟兵師団、これには東州、背州、都護鎮台の部隊を主力とする集成第二軍が対応していますが<帝国>砲兵の集中投入によって押されてしまい、第三軍到着まで消耗を抑える為に森林地帯と清上川支流に沿った形で防衛線を構築、野戦築城を行い膠着状態となっています。
こちらは、一部平野地帯に互いに兵力を集中していますが、簡易の野戦築城によって辛うじて膠着状態を保っており、現状では攻勢に転ずることはできません」
そこで言葉を切ると、瀧川は一瞬だけ馬堂中佐へと視線を向けた。野戦築城には積極的な導術運用が必要不可欠である、衆民将校だけでなく、若手の将家出身の将校達ですらそれを受け入れたのは、市井の生活に導術が完全に浸透している事や、半世紀も前の滅魔亡導がほぼ歴史としてのそれとなった事だけでなく、将家出身の彼が(情報畑を数年間歩んでいたからこそでもあるが)導術の利用を重視し、それをもって北領鎮台を救った事が大いに影響していた。
もっとも、ある程度の年を食っている将家出身の高級将校達の大部分は、導術の効果は認めてもその積極的利用に関しては慎重であった。
結局のところ、〈皇国〉陸軍としての軍制、官僚制が整っても彼らの気分は五将家の家臣としてのそれであったし、彼らにとっての軍は諸将時代の軍――悪く云えば軍閥としてのそれであるのだから防諜に気を遣い、導術士の総本山である魔導院を警戒するように導術士を敬遠するのも無理はない。
「南方――つまりこの第三軍が展開する場所です、ここには第21猟兵師団が展開、此方は龍州軍が対応し、概ね十八里の時点で抗龍川と小規模な集落を利用して侵攻阻止に成功。
こちらも膠着状態となっていますが、龍州軍の担当戦域を縮小し、代わりに集成第三軍が展開しつつある。この時点までは概ね過失を最小限に抑えていると言えるでしょう。
ですが既に<帝国>軍に橋頭堡を確保されています。
導術観測によると、物資の集積所が設置され、また
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ