1章
ヨハン
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……まず、一時的に試作品と研究データをこちらの研究施設に提出していただいてさらに詳しい検査を行います」
「論文の発表などは予定通り行えるんですか?」
「いえ、お察しかと思いますが非常に慎重にことを進める必要があります。我々は論文の発表を遅らせるべきだと思っています。」
「はっきりさせてほしいんですが、遅らせるにしても論文の発表はされますよね?」
彼女はそれには答えずに言った。
「同意していただけますか?」
同意もなにもないだろうと思いながらヨハンはうなずいた。
案の定数分後には研究室は職員でいっぱいになった。
「検査のためしばらく研究室は閉鎖しますので、バカンスにでも出かけてはどうでしょう」
彼女はビジネススマイルでヨハンを研究室から追い出した。
ヨハンはすぐにアパートに帰る気にもなれず近くの喫茶店に入った。
外が見えるように設計された大きな窓からはパリ特有の中世のような街並みが見える。
初めて来たときは感動するんだろうけど毎日見ていれば慣れるというものだ。
彼は息が詰まった時によくここに来た。
特に繁盛しているわけでもなく特別おいしい料理があるわけでもないが、奥の席にいけば自室にいるかのような落ち着いた雰囲気に浸ることができた。
アパートが離れている彼にとっては、近くに頭を冷やして思考できる場所があるというのは非常にうれしいことだった。
「国家機密扱いになる可能性もあるな……」
あまり考えたくないが、その可能性を否定することはできない。
国家機密扱いになったところで、政府組織に雇われて研究を続けることはできると思うが、この落ち着いた生活には離れがたいものを感じる。
ウェイトレスが注文を聞きに来るが食欲もないし昼間から酒を飲む気にもなれないのでサイダーを頼んだ。
「まだ調べたいことがあったんだけどな」
「ん?待てよ…… 一昨日帰らなきゃいけなかったけど、どうしても資料と比較したくてこっそり持ち出した分があるじゃないか!」
「あとは資料とデータだな…… 研究所のサーバーにも保存してあるからログインできればデータも手に入るけど、おそらく僕のアカウントは停止されてるだろう。いや、前使っていたアカウントが消去されずに塩漬けになってたはずだ。それでログインしよう」
一人でぶつぶつと言っていたらウェイトレスがサイダーを持ってきた。
すでに計画を練り終わっていたヨハンは、ウェイトレスが戻る前にごくごくとサイダーを飲み干してコップと代金をトレーにおいて店を出た。
「どうせ研究室には戻れないし、ちょっと実験してもいいかもしれないな」
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